【yutori】社長の片石貴展さんは1993年生まれの「ゆとり世代」。「若者の初期衝動」を価値の源泉にアパレル業界で存在感を発揮する(撮影/写真映像部・佐藤創紀)
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「ハラスメント」「多様性」。そんな言葉が職場に広がって久しい。働きやすい環境に向かう一方で、若い世代が置き去りにされている。打破する方策は。AERA 2024年9月23日号より。

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 劇場や中古レコード店、古着屋などがひしめくサブカルの聖地・下北沢。2022年に大きな再開発を終えたが、雑多な街の雰囲気はそのままで「シモキタらしさ」は健在だ。

 その下北沢駅から歩いて数分の場所に、今最も勢いのあるアパレル企業の一つ、「yutori」のオフィスがある。同社は18年に創業したECを軸にしたアパレル企業で、20を超えるブランドを展開。20年に「ZOZO」の傘下に入り、23年には東証グロース市場に上場を果たす。24年8月には元AKB48の小嶋陽菜さんが手掛ける人気ブランド「Her lip to」の運営会社を子会社化したことでも注目を集めた。

 話題に事欠かない同社だが、最近は社長の片石貴展さん(30)の発言も注目されている。今夏出演したネット番組で、

「“○○ハラスメント”みたいな言葉や表面的な『多様性』などの言葉が全員の好きなように解釈されて独り歩きしている」

「上司は怒りづらくなり、怒られたくない部下との関係の中で人間的な成長が軽視されている」

 と発言。平均年齢25.3歳の会社社長によるリアルな言葉はSNS上でまたたく間に広まった。片石さんは言う。

「最近はハラスメントという言葉をいいことに、社員が成長するための支援をしなくなっています。その結果自分で自分を追い込むしかない『セルフパワハラ』という言葉まで使われるようになって、終わってるなと思いませんか」

厳しい指摘に涙するが

「若者は怒られたくないもの」というイメージが先行するあまり、人と人との関係性が希薄になっている。その結果、若い世代の成長が止まっている。そんな状況を打ち破るように、同社では社長である片石さんも同席する「評価面談」を3カ月に一度実施。ある面談では、

「まだちょっと末っ子感じゃないけど、甘さが目立つ」

「どこかに自分には才能があって何でもできてるって思ってるからそうなる」

 と社名からはイメージしない、厳しい言葉が飛び交った。指摘を図星だと感じたスタッフは涙を流すが、そこに嫌な空気はない。面談の様子をアップした同社のユーチューブ動画にも、「こんなふうに時間を割いてくれるのがうらやましい」といったコメントがついた。

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強烈に心に刺さった