鴻上尚史さん(撮影/写真映像部・小山幸佑)
この記事の写真をすべて見る

 次男を亡くしてから、長男家族に興味が持てなくなってしまったという56歳女性。息子夫婦どころか、かわいいはずの孫のこともあまり興味がなくなってしまったという。そんな女性に鴻上尚史が「無理に孫を愛する必要はない」と言った真意とは。

*  *  *

【相談237 】

 次男を亡くしてから長男に全く興味が持てなくなりました。息子の家族に会いたいという気持ちが全くないのですが、依怙地な気持ちを切り替えるべきなのか迷っています。(56歳 女性 アマデウス)

 私は45歳過ぎてから離婚して二人の息子を育てました。が、次男は7 年前に21歳で自死しました。私はそれまでは、不器用な長男の事の方が気がかりでしたが、次男を亡くしてから長男に全く興味が持てなくなりました。

 次男の死後、長男が結婚しましたが私は結婚相手にもあまり関心がなく「どうぞ勝手に結婚して下さい」という気持ちになりました。また結婚の際に、お嫁さん、またその両親から「結婚の支度金を払うべきだ」と言われ「大人同士が結婚するのに、なぜシングルの私にお金を要求するのか?金がないなら結婚するな」と思い、お金の支払いを拒否しました。

 そうしたところ、お嫁さん側が不快に思い結婚式まで「会いたくない」と言われました。私からすると、次男の悲しみが癒えないのに結婚式などにも引っ張りだされ、非常に嫌でした。そんな事を私にさせる長男にも腹が立ちました。そうしているうちに「コロナ禍」になり、長男家族にも数回しか会わず、私からすると「せいせい」していました。長男自体を嫌ったりしてはいませんし、時々お菓子や孫のお祝いを贈ったりLINEをしたりしています。ただ息子の家族に会いたいという気持ちが全くないのです。

 先日、「11月に七五三のお祝いをするからおいで」と誘われましたが、行きたくありません。私の中で「私の家族は長男と次男だけ」という気持ちが強く、結婚の時にゴタゴタしたお嫁さんやその両親、また孫は「異星人」のような感覚なのです。孫の写真を、スマホの待ち受けにしている人を見ると気がしれません。

 ただ、こういう心持ちでいると、相手にも嫌悪感は伝わるでしょうし、今はまだ健康ですが年老いて頼らざるを得なくなった時に、まずいのかもしれないという気持ちもあります。このままの感覚でいていいのか、依怙地な自分が気持ちを切り替えるべきなのか迷っています。

著者プロフィールを見る
鴻上尚史

鴻上尚史

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)/作家・演出家。1958年、愛媛県生まれ。早稲田大学卒。在学中に劇団「第三舞台」を旗揚げ。94年「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞受賞、2010年「グローブ・ジャングル」で読売文学賞戯曲賞。現在は、「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を中心に脚本、演出を手掛ける。近著に『「空気」を読んでも従わない~生き苦しさからラクになる 』(岩波ジュニア新書)、『ドン・キホーテ走る』(論創社)、また本連載を書籍にした『鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』がある。Twitter(@KOKAMIShoji)も随時更新中

鴻上尚史の記事一覧はこちら
次のページ