本連載の書籍化第5弾!『鴻上尚史のおっとどっこいほがらか人生相談』(朝日新聞出版) 

【鴻上さんの答え】

 トランスさん。僕はトランスさんの文章に感動しました。「私は、彼に出会えて、この世の中もまだ捨てたもんじゃないと、思ったものです」「健康で、好きな人が一緒にいてくれて、笑顔でいられたら、もう、最高に幸せなんです」……なんて素敵な言葉なんでしょう。

 そうですよね。それは「ささやかな幸せ」ではなくて、最高の幸せですよね。

「皆そうして生きてるんだとか、ささやかな幸せを見つめるんだ」なんて言葉を言いたくないというトランスさんは、本当に素敵だと思います。

 確かに、こういう言葉は、「あきらめろ」というメッセージを含みますものね。でも、トランスさんは、「あきらめ」なんて感覚とは、無縁なんですもんね。

 さて、トランスさん。

「夫はどうすればいいのでしょう。私は夫になんと声をかければいいのでしょう」ということですが、僕は二つアドバイスがあります。

 トランスさんは、夫の気持ちを「転職してやりがいのある仕事につきたい、しかしこの年齢で、受け入れてくれる会社があるとは思ってない」と書かれていますが、夫は、年齢が一番の問題だと思っているのでしょうか。

 つまり、やりたい職種や仕事ははっきりしていて、でも年齢が問題だから転職できない、と苦しんでいるんでしょうか。

 それなら、年齢のことはさておいて、とりあえず、やりたい仕事を目指して、今の仕事を続けながら「就職活動」を始めるのがいいと思います。希望する職業や仕事に向かって活動することですから、労働条件がある程度厳しくても、夫は少しは精神的には楽になるんじゃないでしょうか。

 でも、僕には、そもそも、夫は「やりがいのある仕事」が何か分かってないような気がします。今の仕事はやりがいにならない。それだけははっきりしている。でも、自分が本当にやりたいことが何か分からない。やりたい仕事が見えない。ただ抽象的な「やりがいのある仕事」を求めている。そういう状態なんじゃないかと思えるのです。

 どうですか?トランスさん。

 もし、そうなら、トランスさんができることは、「どんな仕事をしたいか」を夫と粘り強く話し、明確にすることじゃないかと思います。

 もちろん、普段なら、大きなお世話と言われるかもしれませんが、「食事はあまり食べなくなり」「常に悩み、笑顔が消え」た現在では、夫の苦悩と迷いをひとつひとつ丁寧にほぐして、ガイドする必要があると思うのです。

 一人で落ち込んでいると、周りが見えなくなって、混乱し、論理的な思考ができなくなるのは、よくあることです。

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