AERA 2024年9月9日号より

 性根を入れかえた契機は、妻の教育実習。ワンオペ状態が1カ月続いた。息子がミルクを飲まない。おむつからうんちが漏れた。深夜にぐずって寝付かない。一つひとつは小さなことだが、家事に追われる中で同時多発すると、どっと疲れた。

 コロナ禍で外出できず、部屋にこもる日々。世界から隔絶された感覚に陥り、ミルクを嫌がる息子の口へ、哺乳瓶の吸い口を無理に突っ込もうとしてしまった。「これはやばい」と、愛蔵する「仁義なき戦い」のDVDを見て一時の現実逃避をしたが、制御できないドス黒い感情がちらついた。

 イライラは妻にも向かった。離乳食の分量をわかっていないことに立腹し、帰宅が遅れたことに文句を言った。そこでハタと気付いたのは、妻も同じイライラを、仕事優先の私に抱いてきたという事実だ。妻は「私もワンオペの時期があったのに、っていうわだかまりは感じた」とふり返る。

 妻の実習が終わり、家事・育児を分担できるありがたみが染みた。妻は育児のメインを交互に担う意義を感じたという。「2人ともが経験を積んだことで、互いの立場やしんどい気持ちを理解できたのは、その後の子育てを考える上でよかった」

(朝日新聞記者・玉置太郎)

AERA 2024年9月9日号より抜粋