AERA 2024年9月9日号より

 性根を入れかえた契機は、妻の教育実習。ワンオペ状態が1カ月続いた。息子がミルクを飲まない。おむつからうんちが漏れた。深夜にぐずって寝付かない。一つひとつは小さなことだが、家事に追われる中で同時多発すると、どっと疲れた。

 コロナ禍で外出できず、部屋にこもる日々。世界から隔絶された感覚に陥り、ミルクを嫌がる息子の口へ、哺乳瓶の吸い口を無理に突っ込もうとしてしまった。「これはやばい」と、愛蔵する「仁義なき戦い」のDVDを見て一時の現実逃避をしたが、制御できないドス黒い感情がちらついた。

 イライラは妻にも向かった。離乳食の分量をわかっていないことに立腹し、帰宅が遅れたことに文句を言った。そこでハタと気付いたのは、妻も同じイライラを、仕事優先の私に抱いてきたという事実だ。妻は「私もワンオペの時期があったのに、っていうわだかまりは感じた」とふり返る。

 妻の実習が終わり、家事・育児を分担できるありがたみが染みた。妻は育児のメインを交互に担う意義を感じたという。「2人ともが経験を積んだことで、互いの立場やしんどい気持ちを理解できたのは、その後の子育てを考える上でよかった」

(朝日新聞記者・玉置太郎)

AERA 2024年9月9日号より抜粋

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玉置太郎

玉置太郎

玉置太郎 (たまき・たろう) 1983年、大阪生まれ。2006年に朝日新聞の記者になり、島根、京都での勤務を経て、11年から大阪社会部に所属。日本で暮らす移民との共生をテーマに、取材を続けてきた。17年から2年間休職し、英国のロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で移民と公共政策についての修士課程を修了。

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