生活様式が変化し、一日中一歩も外出しないという人も。疲れの質も変化している(撮影/写真映像部・和仁貢介)

 加えて、現代では一昔前の疲れ方とは「質」が変わってきていると、片野さんは指摘する。要因の一つが「デジタルデバイス(機器)の普及と発達」だ。

 たとえば営業の仕事。対面で外回りしていた頃は、1日に回れる訪問先はせいぜい3、4件。その間の時間は移動だったり、電車の中で好きな本を読んだり、喫茶店で時間をつぶしたり、ある程度の「余白」があった。

「この余白を上手に休養時間にしていた面があると思います。でもいまは下手をするとオンラインのミーティングが1時間刻みで1日に8、9件入ったりしますよね。デジタルデバイスで便利な時代になるはずが、逆に余白が減り、『仕事沼』にどんどんはまり、いつの間にか自分のペースを見失ってストレス過多になり、疲れる。そんな状況があると思います」

 さらに、多くの職場では昨今の人手不足で、従業員の負担が増している。

 疲れから早く、確実に回復するためにはどうすればいいのか。

 片野さんも所属する日本疲労学会では、疲労を「過度の肉体的および精神的活動、または疾病によって生じた独特の不快感と休養の願望を伴う身体の活動能力の減退した状態」と定義している。片野さんはこの「活動能力の減退した状態」を、休養できちんと元に戻せていないことが問題だと話す。

「私たちは『活動して』→『疲れて』→『休養して』→また『活動して』というトライアングルで考えがち。でも、一晩眠れば元気いっぱいに充電できた子ども時代とは異なり、加齢とともに、このトライアングルでは立ち行かなくなる。休養で『活動能力を増進・増幅させる』ところまで持っていき、『活力のある状態』にしてから再び活動に入らないと、疲労がたまるばかりで回復はできないんです」

 つまり、トライアングルではなく活動→疲労→休養→活力→活動……という四角形の考え方を意識する必要があるのだ。

 では、次の活動につながる「活力」を生む休養の仕方とはどんなものか。「ただだらだらと寝るだけ」で得られるものではないと、片野さんは強調する。

「休養とは、能動的に何かをやることだ、そう意識を変える必要があります。主体的な姿勢、つまりある意味で自分に『負荷』をかけていく。そんな『攻めの休養』こそが重要です」

(編集部・小長光哲郎、井上有紀子)

AERA 2024年9月9日号より抜粋

著者プロフィールを見る
小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

小長光哲郎の記事一覧はこちら
暮らしとモノ班 for promotion
インナーやTシャツ、普段使いのファッションアイテムが安い!Amazon スマイルSALEでまとめ買いしたいオススメ商品は?