超高齢化の波は医師とて例外ではない。「生涯現役」とはよく聞く言葉だが、医師免許はいかなる場合も「生涯有効」でいいのか。現役医師らの指摘からは、地域医療のシビアな理想と現実が見えてくる。
【衝撃のデータ】医師の4割が苦慮…患者との埋められないギャップとは
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開業医だが「認知症だったの」
医療ライターの女性が親しい大学教授と食事をしていた時のこと、こんな話が飛び出した。
「姉の物忘れがひどいと思っていたら、アルツハイマー型認知症だったの」
女性は戸惑った。ちょっと待って、その「姉」って、東日本の中堅都市で開業医としてクリニックを開いているのではなかったか……? 診療業務にさし障りはないのだろうか。そう心配になったことをよく覚えている。
この会話を交わしてから少なくとも数年間、「姉」は現役医師として働いていたと思う。その後、「クリニックを閉めて、介護付き有料老人ホームへ入った」と大学教授から聞いた。
こんな話もある。東京都23区在住の男性が毎年、花粉症の薬を処方してもらっていた近所の耳鼻咽喉科は、いつもすいていた。院長はかなりの高齢で耳が遠く、密なコミュニケーションこそ難しいが、いかにもベテランといった貫禄で年配の看護師が常に隣にいるので、問題を感じたことはない。診察時は院長の震える腕をさりげなく彼女が支える。診察はゆっくりだが、「丁寧に診てもらっている感」があった。だが、その耳鼻咽喉科はコロナ禍で休診になり、再開することなく閉院した。男性は「便利だったのに」と残念がっている。
医師免許は「一生有効」
日本はいまや超高齢社会だ。高齢者(65歳以上)人口が総人口に占める割合は、2023年現在、29.1%と世界で最高だ。75歳以上の人口は2000万人を超え、10人に1人が80歳以上だという。
年齢を重ねるにつれ、一般的に運動機能や身体機能は低下する。反応や判断に時間がかかる傾向が出てくるだろうし、冒頭のように認知症になったりするケースももちろんあるだろう。
医師もその例外ではない。
だが、「生涯現役」という言葉があるとおり、日本では「医師免許」は一生有効だ。大学病院などには定年があるが、たとえば開業すれば、何歳になっても医師業は続けられる。