慢性的な疾患を診る医師の役割

確かに医療技術は日進月歩だ。だが、いっぽうで、医師免許の「更新」は必ずしも必要ではないという見方もある。

 三重県松阪市の松本クリニック院長の松本和隆医師は、三重大学医学部附属病院糖尿病・内分泌内科病棟医長などを経て、2016年に開業した。地域では数少ない糖尿病内科を専門とするクリニックで、県内外から患者が通ってくる。松本医師は言う。

「慢性的な疾患を診る開業医と、最先端の高度医療技術を要する大学病院とは分けて考える必要があると思います」

 たとえば糖尿病の患者の場合、医師は患者の日々の生活に向き合うことが必要で、治療は長い付き合いになる。医師にとって患者の治療へのモチベーションを上げ、生活習慣の改善や薬の継続をサポートしていくことも大切な仕事になる。

 もしも医師免許が更新制になれば、その準備のために時間を割かなければならなくなり、医療に従事できる時間が減ってしまう。

地域医療を支える高齢医師

「私が開業する三重県のような地方都市は、医師が少ない。街中から診療所まで車で1時間、1時間半というところはザラにあります」(松本医師)

 松本医師は、地方医療の現状を踏まえて定年制も「現実的ではない」と、こう指摘する。

「80歳、場合によっては90歳の医師が現役で患者さんを診ています。医師免許に定年制が導入されると、医師が少ない地域に住む人々の健康利益を保つのが難しくなってしまう」

 新宿駅前クリニック院長で、クリニックコンサルタントを務める蓮池林太郎医師も、「地域医療の崩壊」に懸念を示す一人だ。

「地域医療は高齢の医師によって成り立っている部分があるのは間違いありません」と、基本的に「医師免許の定年制には否定的な立場」と断ったうえで、こう続ける。 

今後議論すべきこととは

「ただ、ごく一部の高齢医師の中には認知症を患い、診断や薬の量を間違えるケースもあると聞いています。優秀な看護師や薬剤師がケアしているおかげで、事故が起こっていないと思われます」

 蓮池医師は言う。

「認知機能に関しては、ある一定の年齢を過ぎたらチェックするシステムを作るのはアリなのでは、と考えます」

 最先端の医療か、慢性的な病気や日々の不調のサポートか……。医師に求められる役割は、患者のニーズによって異なる。高齢医師が増えるなか、どう医療の質を保つべきか、現実に即した議論が求められている。

(ライター・羽根田 真智)