リッチになった元カレの逆襲

 今、お便りにある哲学の講師のお相手が、すでに意中の人がいるのか、あるいは本当に非常勤という立場に負い目を感じて恋愛をする気にならないのかは私には分かりませんが、年齢を重ねるにつれ、世間的には若くフレッシュであった女性の値段は下がると思われていて、逆に若い頃に力やお金もなく不器用だった男性はめきめきと力をつけて市場価値が上がると思われているのが通例です。このこと自体にはもちろん社会的な問題がありますが、世間的な感性というのはそう簡単には変わりません。

 もしかしたら、かつて自分に自信がなかった頃にはあなたと付き合いたいと思っていた男性は、だんだんその実力が職場や社会に認められるようになって自信がつき、思いのほかモテるようになって、なかなか自分の魅力に気づいてくれなかったあなたにこだわる必要がなくなっているのかもしれません。私も、かつて「もっといい男がいるかも」と思って別れた元カレと、三十歳を過ぎてから都合よくよりを戻そうと思ったら、独立してリッチになっていた彼にはつゆほども相手にされなかった経験があります。若かった時は私のほうが市場価値が高く、三十過ぎの私と彼ではその価値が逆転していたのかもしれません。

 あなたが安全パイとしてではなく、ものすごく真剣に彼にしかない魅力に気づき、それに気づかなかった時間を心から後悔するなら、なめる気持ち、彼はきっと自分のことを好きだろうという気持ちを一旦リセットした上で、今度は自分こそが彼を追いかける立場になって真摯に思いを伝えてみるのも手だと思います。ただどこかで、彼には追われる立場でいたい、自分が優位な関係性を壊したくないという気持ちが残っているなら、彼のことは忘れて自分が心から追いかけられる相手を見つけるのがいいような気がします。

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鈴木涼美

鈴木涼美

1983年、東京都生まれ。慶應義塾大学在学中にAV女優としてデビューし、キャバクラなどで働きつつ、東京大学大学院修士課程を修了。日本経済新聞社で5年半勤務した後、フリーの文筆家に転身。恋愛コラムやエッセイなど活躍の幅を広げる中、小説第一作の『ギフテッド』、第二作の『グレイスレス』は、芥川賞候補に選出された。著書に、『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』『非・絶滅男女図鑑 男はホントに話を聞かないし、女も頑固に地図は読まない』など。近著は、源氏物語を題材にした小説『YUKARI』

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