オーストラリアでの練習は、刺激的だった。同じチームには、世界トップクラスのオーストラリアの選手たちが集結している。そんなチームでのトレーニングは楽しかった。どんなに苦しい内容だったとしても、ボール・コーチにうまく乗せられて、ついつい頑張ってしまう自分がいた。

 それもこれも、すべて東京五輪の悔しさを晴らしたかったからできたことだ。メダルを期待されているなかでの400mでの予選落ち。ラスト5mまで3位に位置していたにもかかわらず、タッチ差で逆転されて逃した200mのメダル。苦い思い出のまま、五輪という特別な大会を終わらせるわけにはいかなかった。

 なぜなら、子どものころから恋い焦がれた夢の舞台だったから。

 憧れの舞台だからこそ、その場所に悔いを置いて残すようなことはしたくなかった。やりきったという思いで五輪を終わらせたかったのだ。もう、チャレンジすることも叶わないかもしれないからーー。

 結果としては、400mも200mもメダルにも、自己ベストにも届かない結果であった。しかし、どん底だった3年前から努力してはい上がってきて掴んだこの舞台で、作戦を練り、力の限り泳ぎ切ったことで、ようやく悪夢を乗り越えることができた。

「やっぱり、この舞台で全力で戦わせていただけたことに感謝していますし、みなさんの応援やサポートにも感謝したいです。本当に、ありがとうございました」

 その言葉を発した瞬間、勝負の世界から解き放たれたような、優しい笑顔を見せた。アスリートとしては、絶対に周囲に見せてこなかった表情だった。(文・田坂友暁)

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