「こんな面白い仕事はほかにない」

 将来的には、「ピッチクロック」や「AI審判」導入の噂もある。技術の進歩により、審判が置かれる環境や果たすべき役割は、今後変化していく可能性もある。ただ、井野さんは、審判について「こんな魅力的な仕事はない」と語る。

「日本の審判は『権威がない』とか『年俸が安い』とか、いろいろと指摘はされますが、私はこんなに面白い仕事はほかにはないと思います。数億円も稼ぐスター選手たちのプレーを誰よりも近くで見ることができ、そんな選手たちを自分が審判としてジャッジすることができる。あの感動はもう言葉にできません」

 確かに、過酷な場面は多い。

「私も幾度となくとてつもない緊張におそわれました。特に日本シリーズなどの優勝をかけた重要な試合の球審の重圧は、ほんと吐き気がします。ただ、自分が『プレイボール!』と叫んだ瞬間には、不思議とそんな緊張や重圧は一瞬で吹き飛んでしまう。逆に『さあ、今日もやってやろうか』と興奮でワクワクしてくる。あのスイッチが入るような特別な感覚が私は大好きでした。数万人の観衆が、自分のジャッジ一つで一斉に沸くなんて体験もこの仕事ならではの醍醐味。こんな魅力的な仕事はないです。少しでも興味のある人は、ぜひ審判の世界にチャレンジしてほしい」(井野さん)

 今年8月には、年に1度開催されている「NPBアンパイア・スクール」とは別に「NPBアンパイア・キャンプ」という人材を発掘する新たな試みも開催される予定だ。「全日本大学野球連盟所属部員」など参加条件はあるが、若い人材の獲得は業界にとって刺激になることは間違いない。

 華やかな選手の裏で、積み上げた経験とスキルでプロ野球界を支える審判。シーズンも後半戦に突入したが、ときには審判の華麗なジャッジに目を向けてみるのも、野球の新たな魅力発見につながるのではないだろうか。

(AERA dot.編集部・岡本直也)

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