プロ野球界を支える審判たち

 一人前になるまでの長い道のり、決してよいとはいえない待遇、そして体力的な負荷。審判は、体力的、精神的にも、やはり決して楽な仕事ではない。

 記者は最初聞いたときに驚いたが、審判にはサラリーマンのような正社員待遇はないという。大昔には、正規雇用されていた時代もあったというが、現在は「個人事業主」として、毎年、NPBと契約しなければならない。「本契約」でも、常に1年契約で、ボーナスや退職金もない。ただし、シビアな就労環境に思えるが、体力的、技術的に問題がなければ55歳前後まで契約更新の可能性はあるという。

 もし1軍の試合にレギュラーとして定着できれば、待遇は一気によくなる。最低保証年俸+出場手当などが加わって、年1500万円超も夢ではない。

パ・リーグ審判として29年、通算1451試合に出場した山崎夏生さん

リクエスト制度の導入で負担軽減

 技術の進歩によるよい変化もある。

 2018年に導入された「リクエスト制度(判断が難しいプレーが起きたときにビデオ判定を求める制度)」が、審判の精神的な負担を大幅に軽減したという。山崎さんと井野さんはこう評価する。

「カメラの台数が少ないなど、まだ課題はあります。ただ、ミスジャッジを『正す』ことができるのは、審判にとっても、監督や選手、ファンにとっても非常に大きなメリットです。かつてはミスジャッジをしたとしても確認する方法がなく、審判は抗議を突っぱねるしかなかった。今だから言えますが、私も自分の判定を悔やみ、眠れぬ夜を過ごしたことは何度もあります。あんな苦しい思いは、これからの審判にはできるだけしてほしくはない」(山崎さん)

「かつては(ミスジャッジへの)バッシングも激しく、自分の家族にまで被害が及ぶこともありました。子どもが学校で『お前の親父のせいで負けたじゃないか』と友だちに責められるケースもよくありました。今はそんなケースはほとんどない。本当によかったと思います」(井野さん)

 ただし、「審判がリクエスト制度に甘えていいわけではない」という。

「正しい判定をするために、努力は怠ってはいけない。『絶対、機械に負けない』、そういう強い気持ちをいつまでも持ち続けてほしい」(井野さん)

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