判決後の記者会見の様子。右から、朴被告の弁護人、母、弟、支援者である友人(撮影/大谷百合絵)
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 妻を殺害した容疑で2017年1月に逮捕された、講談社の漫画誌「モーニング」元編集次長(現在は退職)の朴鐘顕(パクチョンヒョン)被告(48)は、一貫して無実を訴えてきた。『GTO』などのヒット作を手がけた敏腕編集者で4児の父でもある朴被告は、キャリアも家族も捨てる覚悟で、妻・佳菜子さん(当時38歳)を手にかけたのか。事件の真相に注目が集まる中、裁判は一審・二審で有罪判決が下ったのち、最高裁が「審理が十分に尽くされていない」と東京高裁に差し戻す異例の展開に。そして今月18日。差し戻し控訴審が下した結論は、再びの「有罪」だった。

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 数年にわたり面会や書簡で交流を重ねてきた筆者に対し、朴被告は以前から、差し戻し審への強い期待をにじませていた。東京拘置所から届く手紙にはこんな言葉がつづられていた。

「僕は無罪になる。そう信じています。きつく、きつく」

「興奮しています。7月18日、帰れるのです。僕は、世界へ、帰れるのです」

 だが、証人尋問、弁論、と公判が進むにつれ、心の奥に巣くう不安ものぞかせていた。

「裁判はね、酔うのです。くらくらする。被告席酔いと言うべきものがあるのです。証人や裁判官の一挙手一投足によって、僕の運命は激しく揺れ動きます。あの短い時間の中で、僕の有罪無罪が、ころころと、右往左往するのです」

「これが僕です。弱くて、ちっぽけで、毎日ふるえています」

 期待と不安に押しつぶされそうな日々を送っていたのは、朴被告の4人の子どもたちを女手一つで育てる、朴被告の実母(72)も同じだ。7月上旬、朴被告の母は筆者へのメールの中で、「無罪で帰って来ると信じている反面とても不安です。頭から判決の日のことが離れません」と、こぼしていた。判決前夜は、神経が高ぶったせいか、夏にも関わらず手足が冷えて寝つけず、温かいスキムミルクを飲んでなんとか眠ったという。

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大谷百合絵

大谷百合絵

1995年、東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。朝日新聞水戸総局で記者のキャリアをスタートした後、「週刊朝日」や「AERA dot.」編集部へ。“雑食系”記者として、身のまわりの「なぜ?」を追いかける。AERA dot.ポッドキャストのMC担当。

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