「こんな恋人は初めて」を目指して

 二十三歳の私と比べるのは申し訳ないですが、すでに結婚経験などがある相談者さんの場合でも、たとえば相手が自分にとっては初の同性パートナーであるのに対して、相手にとって自分は初めてではない、というような考えはないでしょうか。すでにお互いオトナの女性だとは思いますが、自分がこの歳まで知らなかった悦びや楽しみを、相手はすでに別の誰かと経験したことがあると考えると、どうしようもなくつらい気持ちになるのかもしれません。だからもしかしたら、そのイライラする気持ちは相手の過去ではなく、自分の過去に起因するのかもしれません。

 離婚した元夫との関係やそれまでの自分の恋愛、同性と築こうとしている今のようなパートナーシップをこれまで経験できなかったことなどが一つの劣等感に繋がっているのであれば、相手とどんなにけんかをしても距離をとってもその気持ちが解消されることはないような気がします。

 それよりは、自分の過去は過去でみっともないまま一度受け止めたうえで、今のパートナーにとって、自分はどういう相手になりたいかを考えてみるのはどうでしょうか。嫉妬してイライラしている恋人よりも、今までの同性パートナーが気づいてくれなかったようなことに気づいたり、知らなかった楽しみを教えてくれたりする恋人になりたい気はしませんか。最初は無理した演技でもよいから、パートナーにとって「こんな恋人は初めて」という存在を目指すことで、相手の過去も自分の過去も気にならなくなるかもしれません。

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鈴木涼美

鈴木涼美

1983年、東京都生まれ。慶應義塾大学在学中にAV女優としてデビューし、キャバクラなどで働きつつ、東京大学大学院修士課程を修了。日本経済新聞社で5年半勤務した後、フリーの文筆家に転身。恋愛コラムやエッセイなど活躍の幅を広げる中、小説第一作の『ギフテッド』、第二作の『グレイスレス』は、芥川賞候補に選出された。著書に、『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』『非・絶滅男女図鑑 男はホントに話を聞かないし、女も頑固に地図は読まない』など。近著は、源氏物語を題材にした小説『YUKARI』

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