劣等感+自尊心が融合した結果…

 くわえて当時の私はAVも引退し、緩い水商売の傍ら大学院に通うしがない学生で、彼や彼の周囲にいる大人の女性に対する強烈なコンプレックスがあったようにも思います。彼は私が何の実績もお金も地位もない、自己主張だけは一丁前の学生だとわかったうえで付き合っていたわけだし、彼の周囲にどれだけ華やかな経歴の女性がいたところで彼女たちに何の悪意も罪もあるわけがありません。

 ただ、大学院のように思想や知識や自意識が澱(おり)のようにたまった閉塞的な場所にいると、自分は他の人に比べて社会にコミットしていないという劣等感と、実益やお金を求めるような凡人と違って自分はもっと高尚で深淵なことを考えているという自尊心が、ものすごく質の悪い融合をして、ひがみっぽい割にプライドの高い人間が出来上がるわけです。少なくとも私はそうでした。

 だからこそ、たとえばCAやモデルのような、大学院生にとって自分の持っている余計なものを持たず、自分が持っていないものをすべて持っているように見える彼の元カノや女友達が憎くて仕方ない、という謎の思考回路になっていたのではないでしょうか。

 今だって私は華やかで才能のある人に劣等感を持っていますし、ああいう風に生きたかったと嫉妬する相手はたくさんいますが、まぁ大人になるということは多少なりとも自分の凡庸さやくだらなさ、そして自分にできることの形というのを受け入れることですし、悪気なく存在する自分より優れた人に八つ当たりするようなことはあまりなくなりました。それに、じっくり一人と付き合うようなことは今でもできるので、若い時のあの膨大なつまみ食いと恋愛ごっこもそんなに悪くなかったと思うわけです。

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向き合うべきは「自分の過去」