雨の日は細心の注意が必要だ。荷物に一滴でも雨粒の跡があると、受け取りを拒む客がいるからだ。発払いと着払いを別々の伝票に書き込むルールを守らない客もいる。集荷の際に指摘すると、「それはあなたの会社の勝手なルールでしょ。私は忙しいの。なんで私が書かなきゃいけないの」とはねつける女性には何度も手を焼いた。

 気候変動も大敵だ。男性はこの数年で2回、夏場の配達中に熱中症で倒れ救急車で搬送された。3年前の8月。台車を押して住宅街をかけずり回り、午前中指定の荷物の配達を終えてトラックに戻った瞬間、頭がクラクラした。同乗していた先輩から「熱中症だよ。一回横になれ」と言われた直後に全身の力が抜けた。男性は病院で点滴を受けた翌日、すぐに仕事に復帰した。「他の配達員にいま以上の負担をかけるのは何としても避けたかった」と男性は言う。

「生活を豊かにする便利なサービスを支えるのは誇り。お客さんのニーズにはできる限り応えたい」。そんな自負のある生身の人間が配達していることを、利用者は頭の片隅にでも思い描いてくれているだろうか。やりきれなさが募る。それでも仕事を続けてこられたのは、配達時に利用者から掛けられる言葉だ。「いつもありがとね」「雨の中、ご苦労さま」「暑いのにご苦労さま」──。男性はこう続けた。

「その言葉を聞いた瞬間、よし頑張ろうとスイッチが入ります。それが一番の支えです。ほとんどの配達員がそうだと思います」

日本は要求水準が高い

 宅配を受け取る場面以外にも、生活の中でできる行動はいくつもある。例えば、「地産地消」を心掛けたり、災害時に必要最小限の注文や購買にとどめたりすることは、物流全体の負担軽減にもつながる。

「物流の2024年問題は単にトラックドライバーの労働時間の問題と捉えるのではなく、社会、とりわけ消費者が意識を変えないと解決しない課題です」

 こう強調するのは東京大学先端科学技術研究センターの井村直人特任研究員だ。大手食品メーカーで長年勤務した物流のスペシャリスト。自身の経験から「荷主優位」の物流業界の構造をこう指摘する。

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