法政大学大学院教授:石山恒貴さん(いしやま・のぶたか)(59)/1964年生まれ。経営学やキャリア開発を専門とし、日本の越境学習研究の第一人者。『定年前と定年後の働き方~サードエイジを生きる思考』(光文社新書)など著書多数(撮影/写真映像部・和仁貢介)

鈴木:05年にワークスアプリケーションズが、当時の日本ではまだ珍しかったアルムナイ採用を導入しました。在職中の人事評価に応じて再入社できますよ、という「カムバック・パス制度」が注目を集めましたね。

石山:アルムナイ採用は、アルムナイのあり方の一部にすぎません。むしろ、会社を辞めた後でも、多様なアルムナイと幅広くネットワークを築くことに意味があります。アルムナイは戻ってくることだけが前提ではなく、戻っても戻らなくてもお互いにいい関係を継続しようという関係性。過度に公平性の観点で見る必要はないと思うんです。

鈴木:働き方は変化しているのに、「退職=縁の切れ目」という考えがまだ強すぎます。採用の場面でも退職の場面でも、企業と社員の関係は考えても、アルムナイとどう付き合うかなど、企業と個人の関係にまでは思い至っていないんです。

アルムナイの経験や知見、企業側のメリットに

石山:ステークホルダー資本主義を前提に、社員を対等なステークホルダーと言いながら、その実は主従関係だと思っている組織がまだ存在していると感じます。組織と個人を対等な関係と思っていれば、裏切り者だと言われることもないはずだし、退職後もいい関係を築くことが当たり前なはず。つまりアルムナイの意義とは、組織と個人は対等のステークホルダーであると、本質的に考え方を転換するところにあります。

鈴木:アルムナイも越境学習のように組織を“行き来する”ということが大事だと思っています。たとえば、大企業(ホーム)からスタートアップ企業(アウェー)に行ったら、そこが居心地の良いホームになってしまい、アウェーになった大企業を揶揄するということがあります。もともとホームだったところがアウェーに感じるようになってから行き来をするからこそ価値があるのに、と残念に思います。

石山:行き来するというのは複数のコミュニティーに同時に所属しているということで、メタ認知ができる(俯瞰できる)というのが強みですよね。大企業にもスタートアップにも、いいところも悪いところもある。行き来することで自分の中に多元的な価値観が生まれて、俯瞰できるようになる。

暮らしとモノ班 for promotion
大谷翔平選手の好感度の高さに企業もメロメロ!どんな企業と契約している?
次のページ