石山:以前は「越境学習」を唱えても、社会の関心は高くありませんでした。17年の働き方改革で副業が推進されるようになり、社会の意識はだいぶ変わりました。ただ、先に変わったのは個人で、意思のある個人が説得して会社も不承不承追随するという場合も多かったように感じます。
鈴木:アルムナイも同じで、企業の理解を得るのは簡単ではない。ネガティブな退職もあるなかで、全員と良好な関係を築くことができるわけではない。退職者としても裏切り者扱いされるケースもある。一方、いい関係のまま辞めている人だけではなく、退職後に関係を改善する企業と退職者も存在する。良好な関係を築ける企業と退職者をどうやって増やせるのか、というのが日本のアルムナイの始まりです。
石山:日本的雇用には、職務、勤務地、労働時間の「三つの無限定」を受け入れる社員の処遇を高くするという特徴があります。逆に受け入れない働き方の人々の処遇は不安定になります。こうした特徴は世界でも珍しいものです。そして、この特徴はアルムナイの広がりに対して大きな障壁となります。
鈴木:アルムナイの事業を考えたのは、前職でシンガポールにいたときです。現地では色々な働き方をしている人に会い、個人は変化するライフスタイルに合わせて勝手に変わっていくんだと実感しました。でも多くの社員を抱える企業が変わるのは簡単なことではない。中でも退職に関してはほとんど変わっていない。そして、退職されるとそれまでの投資が無駄になるから人に投資をしたくないという声まで聞きました。それであれば、退職されても投資が無駄にならない、退職してもつながり続けるという考え方にシフトできないか、と。
石山:個人側はみな、退職後も会社といい関係を築きたいと基本的には思っているはず。アルムナイは組織と個人の新しい関係なのに、日本的雇用の会社は「みんな同じでなければならない」と過度に公平性を重んじがちです。