子供時代、過度に期待する親が一番嫌がることですね。こんなことをやっていると「あんたは飽きっぽすぎる」「真面目じゃない」「腰を落ち着けてじっくりと取り組みなさい」なんて、間違いなく言われるでしょう。「石の上にも3年」なんてことですね。

 でも、「自分が好きなこと」は、やってみないと分からないし、やってみたら、いろんなことに気付きます。西洋の「転がる石には苔は生えない」という諺は、最初は「転がること」がネガティブな意味でしたが、今では、ポジティブな使われ方をすることが欧米では多いようです。

 少なくとも「自分の好きなこと」を見つける時は、うんと腰が軽くていいと思います。とにかく、面白そうなことに首を突っ込んでみる。親だけじゃなくて、参加者に気をつかうなんてノイズに惑わされず、自分が「対象」を好きかどうかに集中する。

 そうやって、やがて、いしださんが憧れる「ひとつの道」にたどりつければものすごくラッキーです。でもね、いしださん、なかなか見つからなくても、落ち込むことはないと思います。

 だって、「これだと思うひとつのもの」を見つけて、それに打ち込めるというのは、奇跡的なことだと僕は思っているのです。

 まして、それが職業につながったりしたら、奇跡の中の奇跡、ビッグミラクルだと思います。それは、「本当に愛するたった一人のパートナーと出会う」とか「知らない人が突然100万円くれる」なんて奇跡と同じぐらいのことだと僕は思っているのです。

 ですから、いしださん。そういうものに、もし出会えなくても、落ち込むことも焦ることもないと思います。

「ひとつの道」を探すために、いろんなことに首を突っ込み、これじゃないと放り出し、また次のものに首を突っ込む、その過程をうんと楽しんだらいいんじゃないかと思うのです。

 その結果、いしださんが「これだ!」と思えるものに出会えたら、奇跡です。でも、目的地にたどり着くことではなく、「探す旅の途中」を味わうことは、とても素敵なことだと思うのです。

 いしださん、どうですか?

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鴻上尚史

鴻上尚史

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)/作家・演出家。1958年、愛媛県生まれ。早稲田大学卒。在学中に劇団「第三舞台」を旗揚げ。94年「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞受賞、2010年「グローブ・ジャングル」で読売文学賞戯曲賞。現在は、「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を中心に脚本、演出を手掛ける。近著に『「空気」を読んでも従わない~生き苦しさからラクになる 』(岩波ジュニア新書)、『ドン・キホーテ走る』(論創社)、また本連載を書籍にした『鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』がある。Twitter(@KOKAMIShoji)も随時更新中

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