本連載の書籍化第5弾!『鴻上尚史のおっとどっこいほがらか人生相談』(朝日新聞出版)

【鴻上さんの答え】

 いしだおかかさん。いろいろありましたね。でも、相談文を読んで、今のいしだおかかさんの状況にホッとしました。

 長いのでいしださんにしますね。僕も「自分自身の檻から出さえすれば実はなんでもチャレンジできてしまう」と、いしださんが気付いたことと同じことをずっと思っています。

 僕は、とても幸運なことに、「肯定的な母親」の元で育ちました。一日中働いていた小学校の教師でしたから(ブラックなんていう意識もない時代でした)、一緒にいる時間は少なかったですが(保護者参観とか運動会とか入学式に母親が参加したことは一度もないです)、否定的なことを言われた記憶はまったくありません。

 何かを始めようとした時に「お前には無理」「できるわけがない」「ムダなことはやめろ」なんて言葉を聞いたことは一度もないのです。

 小学校の時にピアノを習いたいと自分から言い出した時も、中学や高校で一人旅に行くと宣言した時も、母親は否定的なことは何も言いませんでした。

 大学に入学して、授業にまったく出ないまま、劇団を作り、就活をいっさいしないで「プロになるぞお!」と息巻いていた時も、母親は「そんなものになれるわけがない」とは一言も言いませんでした。

 といって、「~をしなさい」と積極的に背中を押されたわけではありません。僕は、一度も塾に通ったことはないし、家庭教師がついたこともありません。母親から「塾に行け」とか「勉強しなさい」なんて責められた記憶がないし、「あなたなら、きっとできるから」なんて、やる気を鼓舞された記憶もありません。

 ただ、微笑みながら、僕のすることを見守っていてくれたという印象です。そういう母親の態度に、僕は深く感謝しています。

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