養子縁組、事実婚といった、現代ならではの人間関係も垣間見える。なかでも、母と離婚した父が絵と会うエピソードは、とくに描きたかった場面の一つだという。絵の父は、読み手にとって、感じの悪い人ではない。けれど、結婚生活がうまくいかなかったのも想像できる。

 子どもと親の関係は、必ずしも何かに括られる必要はなく、「良い」「悪い」といった表層的な価値観では測れない関係がきっとある。それを書いておきたい、という気持ちがあったのだと言う。

「もともと私は、いわゆる昭和の『正しい』家族像と一致する家族は描いてこなかった気がします。今回、敢えてそれを訴えたいというわけではなかったけれど、『なんでもありがいいな』と思っていたので、そうした気持ちは現れているのかもしれないですね」

 読み進めると、登場人物全員を好きになってしまう。

「私も絵君の繊細さも好きだし、なんと言ってもりらが好きかな。人と馴染むのが苦手だろうから生きるのはつらそうだけれど、自分ではわかっていないというか。その感じがいいのかもしれないですね」

 物語の終盤、絵の母が新たな人生を歩んでいる場面に喜びを覚えた、と伝えると「私も本当に良かったと思っていて」と柔らかな笑顔が返ってきた。

(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2024年7月8日号

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