川上弘美(かわかみ・ひろみ)/1958年生まれ。94年に『神様』でデビュー。著書に『蛇を踏む』『センセイの鞄』『真鶴』など。近著に『恋ははかない、あるいは、プールの底のステーキ』(撮影/山本倫子)
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 AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

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 『明日、晴れますように 続七夜物語』は2012年に発売された、『七夜物語』の続編に当たる。同作の主人公は、小学生だった頃の絵の母とりらの父。本書は、第一章「20」を何げなく書き始めたことをきっかけに、8年かけ完成させた。小学生が学年別に習う漢字表をベースに、会話も思考も平仮名と漢字が織り交ぜられ語られる。著者の川上弘美さんに同書にかける思いを聞いた。

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読書感想文って、なんだかしつれいな気がする」「とうさんとかあさんは、夫婦だったころ、何を話していたんだろう」

 川上弘美さん(66)の新作『明日、晴れますように 続七夜物語』の主人公は、小学4年生のりらと絵(かい)。家族のこと、世の中のことを意識し始める年頃の二人だ。それぞれの視点で進む物語一つ一つに、動作や言葉に対する繊細な感性が宿る。

「言葉をうまく使える子たちですよね。私自身は、子どものころはこんなふうには表現できなかったのですが」

 そう川上さんは言う。

 あの頃、皮膚感覚でなんとなく感じていたこと、言語化できないまま澱のように溜まっていった感情が二人の言葉によって立ち現れる。けれど、「この年齢設定だから、こんなことが書けるだろう」とあらかじめ考えることはなかった、と川上さんは言う。

「どんな小説であっても、登場人物たちに私自身の気持ちを語らせたい、という思いはないんです。とは言っても、考え方やモノの見方は自然と出てしまうんですよね、きっと。書いていて、この子たちのことがどんどん好きになっていった。すると、『この子たちならどう考えるのかな』という発想になっていきました」

『明日、晴れますように続七夜物語』(2090円〈税込み〉/朝日新聞出版)2012年に発売された、『七夜物語』の続編に当たる。同作の主人公は、小学生だった頃の絵の母とりらの父。本書は、第一章「20」を何げなく書き始めたことをきっかけに、8年かけ完成させた。小学生が学年別に習う漢字表をベースに、会話も思考も平仮名と漢字が織り交ぜられ語られる。「制限はかかりますが、それにより普段の文体とは異なることが言えるようになったかもしれません」(川上さん)

 本書は、子どもたち二人の冒険を描いた『七夜物語』(2012年)の時を経た続編に当たる。かねて児童文学が好きだったことから、「ファンタジーを描きたい」と思い続け、ついに臨んだのが前作。対し、今作は現実で出会っていそうな子どもたち、日常と地続きの物語を意識した。

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