「30年以上ネパールに通い、国の発展はもちろん、登山隊の荷物持ちをしていた少年が立派なサーダー(ガイドのリーダー)になっていくような、人の成長も見せてもらいました。この間、国としてはずいぶん経済成長したけれど、地域や階層によって人々の知識も、開発の程度もまだらで、格差が生まれています。ネパールに育ててもらった登山家として恩返ししたいんです」
また、登山家として竹内さんが通ったのは山側のエリアだが、山のない地域の文化や生活にも興味があるという。
「ライフワークとしてネパールに浸かり、山だけじゃない魅力を発信していきます」
そしてもう一つが野外教育だ。竹内さんは小学生のときに参加した自然体験イベントをきっかけに、学生時代から野外教育に携わり、プロ登山家への道を見いだしたという。
「私は学校教育では評価されないタイプでしたが、野外教育に出合い、登山という分野で能力を発揮できた。同じように学校教育だけでは力を出せない子はたくさんいます。見えない力を野外教育で発揮させ、新たな生き方をつくりたい。野外教育を学校教育と並ぶ両輪にしたいんです」
2016年の未踏峰・マランフラン(6573メートル)挑戦を最後に、ヒマラヤでの本格的な登山からは遠ざかる。それでも、「プロ登山家」であることにこだわり続ける。
「確かに、今の私はプレイヤーとしては登山家ではないでしょう。でも、ネパールでの活動も野外教育も、プロ登山家として責任を持って取り組みたいと思っています。これは他人に向けたものではなく、自分自身に課している言葉なんです」
(編集部・川口穣)
※AERA 2024年7月8日号