客は肉体を癒やすためだけにサロンを訪れるのではありません。体をほぐされていくうちに、誰もが人に言えない悩みを口にするようになるそう。張りつめていた心も緩むのでしょう。サロンを営む別の友人も同じことを言っていた。
Aさんは「答えはお客様がもっている」とも言いました。「答え」とは、お客様がほしかったものを手に入れられたかどうかでしょう。肉体だけでなく、心のわだかまりも解消できたか否か。答えを導きだすには、客の安心と安全が確保できる場所で、じっくり向き合うしかない。そう思っての独立だったそう。
最近、俗に言う異業種転職の脱サラとは異なり、いま持つ自分の技術をより極めるための大人の独立が目立ちます。フリーアナウンサーの堀井美香さんも50歳で独立しました。会社員であり続けたからこそ、定年60歳までの10年をどう働くかを、真剣に考える年ごろなのかもしれません。守られて働いてきた人が、今度は自分の信条を守るため、リスクをしょって沖に出る時期。
晴れて自営業になれば定年の概念など吹き飛ぶのですが、とは言え思うように働ける時間は限られています。私だってそう。後悔のないように生きるには、あと10年どうやって働くか。新たな命題です。
※AERA 2024年7月8日号