最近までの電気自動車(EV)化の加速度的な進展が続けば、日本メーカーは追いつくことができず、自動車一本足打法と揶揄される日本の産業構造全体に大打撃となるはずだった。
しかし、幸いにも世界のEV化のスピードが若干ダウンしそうだ。これにより、日本メーカーがEV生産に本格参入して中国メーカーや米テスラ社に追いつく道が開けたという見方が広がっている。トヨタが、全方位戦略と銘打って、当面はハイブリッド車(HV)で稼ぎ、そこで得た資金をEVやその先の水素車の開発投資に振り向けるという作戦も成功しそうだという説にも説得力が出てくる。
しかし、その見方には重要な見落としがある。どういうことか解説してみよう。
ポイントは、EV化は、自動車産業だけにとどまらず、産業の幅広い分野における「イノベーション」とともに、巨大かつ意図せざる波及効果を生みながら進展するということだ。
日本では、EV化を阻む要因がいくつも挙げられる。例を挙げよう。
まず、EVは航続距離がガソリン車やHVよりも短く、不安があるという指摘だ。確かに、日本製のEVは航続距離が短いが、中国では、航続距離1000キロメートルというEVも出てきた。もはや大きな問題ではない。
また、充電に時間がかかるという問題については、日本ではそのとおりなのだが、中国では、充電器と電池側の双方の性能アップが実現し、日本の駐車場などにある1時間前後必要な「急速充電器」(200kW程度)を遥かに上回る高速で充電できる高出力(500kWを超えるものも実用化されている)の「超急速充電器」が普及し始めた。電池サイドでも、800ボルト対応が実用化され、10分で600キロメートル分の充電ができるというところまで来た。さらに進歩は加速するので、充電時間の問題は克服されるだろう。