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 「若いままで歳月を過ごしていける」「老いない人生」。そんな未来の可能性を提示するのは、生命科学者の早野元詞氏だ。老いの制御に深く関わるエピゲノムの機能を研究で解明した。老化を加速させたマウスから見えてきた老化スイッチとは? 早野氏の新著『エイジング革命』(朝日新書)から、一部抜粋・再編集して紹介する。

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エピゲノムを押入れに喩えれば

 老化の抑制に重要な役割を果たす「エピゲノム」。

 押入れ全体をDNAだとします。そこには必要な道具がいろいろ揃っています。その中から、必要なときに必要な道具を必要に応じて使う。つまり、遺伝子を使って必要なタンパク質を体内で作る。

 ところが、長年使用しているうちに(=加齢に伴って)、最初は整理整頓されていた押入れの中が、ごちゃごちゃと乱れてくる。たとえば、掃除機を使いたくてもどこにあるのかわからない。その結果、掃除機で掃除をすることができない。

 それでは困るわけです。

 必要なのは、押入れを元通りに整頓してくれるハウスキーパーです。このハウスキーパーの役割を果たしているのが、どうやらサーチュイン遺伝子だとわかってきました。具体的には、サーチュイン遺伝子によって作られるタンパク質「サーチュイン」が、押入れを整理してくれる。つまりエピゲノムを修正してくれるのです。

 レシピ本の喩えでいえば、間違ったところに貼られてしまった付箋紙を、正しい位置に貼り直してくれるのがサーチュイン遺伝子です。ただし一つ問題がありました。

 サーチュイン遺伝子も、加齢と共に衰えていくのです。だから、押入れの整理を適当にしてしまったり、付箋紙を貼り直す場所を微妙に間違ったりする。

 ということは何らかの方法でサーチュイン、すなわちハウスキーパーを元気づけてあげられれば、またしっかりと押入れは整理整頓されるはずです。

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早野元詞

早野元詞

(はやの・もとし)/1982年、熊本県生まれ。慶應義塾大学医学部整形外科学教室特任講師。老化、エピジェネティクスが専門。2005年、熊本大学理学部卒業。2011年、東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカルゲノム専攻にて博士号(生命科学)取得。2013年より米ハーバード大学医学大学院に留学し、同大学院フェロー及びヒューマンフロンティアサイエンスプログラムフェローを経て、2017年より慶應義塾大学医学部眼科学教室特任講師に着任。同大学理工学部システムデザイン工学科および医学部精神・神経学教室特任講師を経て、2023年4月より現職。

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マウス実験で老化のしくみを解明