「若いままで歳月を過ごしていける」「老いない人生」。そんな未来の可能性を提示するのは、生命科学者の早野元詞氏だ。老いの制御に深く関わるエピゲノムの機能を研究で解明した。老化を加速させたマウスから見えてきた老化スイッチとは? 早野氏の新著『エイジング革命』(朝日新書)から、一部抜粋・再編集して紹介する。
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エピゲノムを押入れに喩えれば
老化の抑制に重要な役割を果たす「エピゲノム」。
押入れ全体をDNAだとします。そこには必要な道具がいろいろ揃っています。その中から、必要なときに必要な道具を必要に応じて使う。つまり、遺伝子を使って必要なタンパク質を体内で作る。
ところが、長年使用しているうちに(=加齢に伴って)、最初は整理整頓されていた押入れの中が、ごちゃごちゃと乱れてくる。たとえば、掃除機を使いたくてもどこにあるのかわからない。その結果、掃除機で掃除をすることができない。
それでは困るわけです。
必要なのは、押入れを元通りに整頓してくれるハウスキーパーです。このハウスキーパーの役割を果たしているのが、どうやらサーチュイン遺伝子だとわかってきました。具体的には、サーチュイン遺伝子によって作られるタンパク質「サーチュイン」が、押入れを整理してくれる。つまりエピゲノムを修正してくれるのです。
レシピ本の喩えでいえば、間違ったところに貼られてしまった付箋紙を、正しい位置に貼り直してくれるのがサーチュイン遺伝子です。ただし一つ問題がありました。
サーチュイン遺伝子も、加齢と共に衰えていくのです。だから、押入れの整理を適当にしてしまったり、付箋紙を貼り直す場所を微妙に間違ったりする。
ということは何らかの方法でサーチュイン、すなわちハウスキーパーを元気づけてあげられれば、またしっかりと押入れは整理整頓されるはずです。