シンクレア博士らの総説「The Information Theory of Aging」には、若いときのエピゲノム情報が失われることで老化することがまとめてありますが、ICEマウスを使った実験の目的は、まさにそれを実験的に証明することにありました。

 それぞれの細胞や臓器には、肝臓や脳といったアイデンティティを決めるエピゲノムがアナログ情報として記録されています。しかし、若いICEマウスに修復可能な弱い「揺らぎ」をDNA損傷ストレスという形で与えると、デジタル情報であるDNA配列ではなく、アナログ情報であるエピゲノムが変化してしまいます。

 その結果、若いICEマウスは、〝若気の至り〞では済まされずに老化が加速して、認知症、サルコペニア、骨粗鬆症といった症状が早く現れてきます。これはある意味、若いときのエピゲノム情報を正しく取得すれば、自分自身がどういう老化をたどるのかを予測できるということでもあります。

 ただし揺らぎによって、エピゲノム情報を失いやすい細胞や臓器と、情報を保持しやすい細胞や臓器に分かれることもわかっています。

 また、エピゲノム情報を消失させるストレスについても閾値があることがわかってきました。「我慢の限界」という言葉がありますが、実は我々の身体の中でもストレスが一定量を超えると、ドミノ倒しのようにエピゲノム情報が失われ、老化が進んでいってしまいます。これはICEマウスを使った実験でも示されています。DNA損傷の期間が2週間ではなく、3週間を超えると老化のスイッチが入るのです。

 おそらく人間のエイジングにも同じような閾値があるはずです。一卵性双生児でも一方が歳を取って見えたり、ウェルナー症候群の患者さんが、30歳前後に急激に老化に似た症状が進行するのもエピゲノム情報の閾値が関係しているかもしれません。

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年齢不相応に若い人たちの押し入れは