あるいは健常な人でも、だいたい65歳を過ぎたあたりから、急激にエイジングが加速します。〝老化スイッチ〞といえる加速起動装置、いわば〝ドミノ倒し〞の最初のドミノを押す指は、一体どのようなものなのか。これを科学的に突き止めることが、現在の私の研究課題の一つです。
 

20代のまま生きる未来

 ICEマウスで発見された、DNA損傷を2週間続けた場合と3週間続けた場合の明らかな違い。これは、前者と後者の間のどこかで老化スイッチによるドミノ倒しが起きていることを示していました。

 最初のドミノが倒れると老化が一気に進み出す。だとすれば、先頭のドミノを倒れないように強化すれば、エイジングを止められるのではないか。

 すでに何らかのタンパク質が老化スイッチに影響を与えていることはわかってきており、具体的な候補物質もいくつか見つかっています。いずれ研究が進めば、たとえば20代や30代の段階で、〝老化スイッチ・タンパク質〞の状態を自らチェックできるようになるかもしれません。そればかりか、20代のまま変わることなく、その後30年も40年も生きていく未来さえ可能になるでしょう。

 つまり「老化防止」「若返りのリジュビネーション」だけでなく、エイジングについての第三の道が見えてくる。それは次のような道です。

「若いままで歳月を過ごしていける」

 そんなバカな! という話ではなく、ハダカデバネズミやリクガメたちは実際に「老いない人生」を送っているのです。細胞老化を防ぐメカニズムを備えている、だからハダカデバネズミは老化しない。

 順天堂大学の南野徹教授が開発した「老化細胞除去ワクチン」も、老化した細胞だけが持っている標識を認識して、身体からそれを排除することで病気を防いだり治療するコンセプトです。東京大学大学院の中西真教授(現・東京大学医科学研究所所長)らのチームも、老化した細胞を除去する薬の開発や抗体を使って、老化を制御する試みを発表しています。細胞が老化する仕組みにもエピゲノムが大きく関わっているわけです。こうしたさまざまな方法によって、老化を「止める」なんていう日が近々実現するかもしれません。

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