このサーチュイン遺伝子を活性化してくれる化合物が、「NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)」と呼ばれる酵素です。もともと細胞内にNAD+はありますが、加齢に伴い減少していきます。そこで、それを補う化合物として、先述のNMNというサプリメントが注目されているのです。

 サプリメントとしてNMNを体内に取り込めば、それがNAD+に変換されて、サーチュイン遺伝子が活性化される。よって押入れが再びきれいに整理されて、必要なものを必要なときに使えるようになる。

 つまり、老化を制御できるわけです。
 

老化スイッチが見えてきた

 私の老化研究のスタートは、「ICE(for Inducible Changes to the Epigenome:エピゲノムを変化させて老化状態にした)マウス」の作製からでした。

 ICEマウスは、遺伝子のDNAの一部を人工的に傷つけることによってエピゲノムを変化させた、いわば、老化を加速させたマウスです。

 研究方法は、初めに普通のマウスからICEマウスを作り、次にそのICEマウスの老化を治療する。要するにわざと押入れを揺らして、いったん中をごちゃごちゃにしてから元に戻す(=治療する)のです。その際、押入れの中のものがすっかり壊れてしまっているのか、それともただ整理されていなかっただけなのか。後者ならば、整理されなくなっただけで本当に老化は加速するのか、それらのプロセスを10年以上かけて研究し続けました。

 この論文は、シンクレア博士のリーダーシップと、共同第一著者で友人でもあるヤン博士のぼう大なデータ、そして多くの共同研究者の支援によって2023年、アメリカの科学学術誌『セル(Cell)』に掲載されました。もちろんそれは学術論文なので、わかりやすく言い換えて説明したいと思います。

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