便利なはずのものをあえてやめる、というのは、利用者にとって不便を強いるように思える。

 しかし、どうもそうではないようだ。首都圏目線では全国交通系ICカードさえあればという意識になりがちだが、熊本県民の間での使用率は路線バスで24%、電車で18%の利用にとどまる。出張先で当たり前のようにSuicaを出して電車に乗ろうとしても乗れない日がやがて来てもおかしくない。

首都圏目線に欠けている、ある問題点

 なぜ地方では交通機関への乗車にカードによるタッチ決済を選ぶのか。

 キャッシュレス化を進めるなら交通系ICカードのほうが便利ではないかと、筆者もそう思っていた。その認識が一変したのが今年2月のこと。筆者は毎年、プロ野球キャンプを見るため沖縄を訪れている。沖縄本島内の移動はレンタカーが必須だが、キャンプ観戦のネックは駐車場の確保だ。早朝からすぐに満杯になり、球場に着いても車が駐められない駐車難民が大量に発生する。そこで、今年はいっそのこと車を諦め、タクシーとバスで移動することにした。

 改めて調べてみると、沖縄県内には高速バスや路線バス網が張り巡らされており、目的の球場付近まで移動するのも可能とわかった。長距離のバス移動にはそれなりの運賃がかかるが、レンタカー代や駐車場ストレスを天秤にかけると許容範囲と判断した。そこまではよかったのだが、問題はバスがなかなか時刻表通りに来ないこと。これがいわゆる沖縄時間かと最初のうちは思っていたが、理由は別にあった。

 見ていると、ほとんどの乗客が運賃を現金で払うのだ。バスのドライバーは、客一人ひとりの整理券を目視で確認し、運賃の確認をし、両替をし……とやることが多い。降りる客が多い観光地付近ともなると、かなりの時間がとられる。これでは発車が遅れるのも無理はない。なぜ支払いをICカードでキャッシュレス化しないのだろうと不思議だった。運転手の負担も減るし、乗客もいちいち両替したり小銭を探す必要がない。運行の遅れも減るだろうに――と。

 沖縄にもOKICAという交通系ICカードがあるが、バス客の間で普及しているようには見えなかった。ICカードでバスに乗るのが当たり前の東京モンには不思議でならなかったのだが――。

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