そこに盲点があった。首都圏で生活していると、当たり前のように電車で移動する。SuicaやPASMOのチャージは、乗降する駅の券売機等で行う。しかし、沖縄本島には鉄路がないのだ。「ゆいレール」以外、JRも第三セクターも地下鉄もない。移動の合間にチャージできる駅がないのだ。
ICカードを使おうとすると、いちいちチャージできるスポットに行くことになる。OKICAの公式サイトには、ゆいレールの駅や沖縄銀行・一部ショッピングセンターでチャージできるとあるが、わざわざそこまで行かなくてはいけない。バスの車内でもチャージできるそうだが、だったら現金払いのままでも手間は変わらない。
そもそもチャージする場所が少ないのに、交通系ICカードが便利だから使おうとは考えないだろう。だからこそ、チャージ不要で手持ちのクレカがそのまま使えるタッチ決済乗車を導入する意義があるのだ。沖縄では一部の路線バスで、すでにクレカのタッチ決済乗車を採用しているが、そういうことだったのか。これは東京目線では気づけない点だった。
沖縄だけでなく、車社会で鉄道の移動機会が減っている地方では、同じような事情があるのではないか。交通系ICカードが便利と考えるのが、鉄道網が整っている都市部に限られるとすれば、先の熊本県の決断も頷ける。熊本県だけでなく、同じような自治体が今後増えてくる可能性は大いにある。
首都圏こそガラパゴスになりかねない?
国内の決済に占めるキャッシュレス比率はすでに約4割近くになっているが、うち交通系ICカードの割合はじわじわ落ちている。今やQRコード決済に追い抜かれ、タッチ決済対応カードへの切り替えが進むクレジットカードとの差もどんどん広がっていきそうだ。
SuicaやPASMOで移動も買い物も支払える首都圏の常識こそ、ガラパゴスになってしまうかもしれない。
といっても、タッチ決済乗車は万能ではない。利用できるのはクレジットカード、国際ブランド付きデビットカード、一部プリペイドカードとカードを登録したモバイル端末となっているが、クレジットカードを持たない人もいるだろう。片やデビットカードを発行するには銀行口座が必須で、一般的には15歳以上だが、中学生を除くとする銀行も多い。子どもたちが利用するときに不便はないのだろうか。まさか政府が「マイナカードにタッチ機能を付けたので、電車もバスも乗れるようになりますよ。日本中、国民全員が対象ですよ」などと言い出したりして――おっと、悪い冗談だった。
(松崎 のり子 : 消費経済ジャーナリスト )