うまみやコクが強まる
塩味の元となるナトリウムイオンは食品中に分散している。それが舌に触れることで私たちは塩味を感じるが、舌に触れないイオンも多い。エレキソルトは微弱な電流でイオンの動きをコントロールし、多くのイオンが舌に触れるように調整するのだという。実証実験では、減塩食の塩味が1.5倍程度増強されるとの結果が出たそう。
開発を担当したキリンホールディングスの佐藤愛さんは言う。
「食べなれた塩分の多い食事を変えるのはつらいものがあります。食塩の取りすぎは解決しつつ、いつまでも『おいしい食事のある人生』を送るサポートをしたいと開発しました」
発売に先立ち、このスプーンで実食する機会があった。試したのは減塩のバターチキンカレー。まず普通のスプーンで一口。辛さはありつつ、トマトなど素材の風味を感じる優しい味だ。でもカレーは優しくなくていい。ルーだけ食べるとおいしいが、ご飯と一緒ならきっと物足りない、先日のレトルトカレーと同じような味わいだった。そこで、エレキソルトを使ってみる。
「………」
もうひとくち。最初、効果のほどがよくわからず試食のルーをおかわりした。感じ方には個人差がある。舌の鈍い私には効果はないか……と思ったが、普通のスプーンとエレキソルトでそれぞれ交互に食べ進めると、はっきり味の違いが感じられた。塩味が1.5倍になったかは正直わからない。ただ、味が全体的に濃く、際立って感じられる。これならご飯と一緒でもイケそうだ。宮下教授によると、デバイスではナトリウムイオン以外のイオンも移動させることから、全体的なうまみやコクが強まる効果が期待できるのだという。
しょっぱくするというよりは、味が際立つスプーンと言うべきか。カトラリーとしての使いやすさなど、今後さらなる改善を期待したい部分もあるが、技術の力が食卓の未来を変えるかもしれない。そんな希望が口いっぱいに広がった。(編集部・川口穣)
※AERA 2024年6月17日号