【日本音響研究】所長 鈴木創(すずき・はじめ)/1971年、東京都生まれ。89年日本音響研究所入所。93年日本大学文理学部応用物理学科卒業。同研究所の仕事をしながら、ミュージックイン、ビーエムアイへの出向も経験。2012年から現職。24年、『赤ちゃんのぐずり泣きが止まる本』(講談社)を上梓(撮影/写真映像部・東川哲也)
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 全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2024年6月17日号には日本音響研究所 所長 鈴木創さんが登場した。

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 幼少期から「音響機器」が身近にあった。科学警察研究所出身の先代の父と共に、中学生の頃から録音やその編集を手伝ってきた。「今年53歳になりましたが、キャリアは40年です」と笑う。

 1980年代、音にまつわる事件や事故が多発した。「グリコ・森永事件」「日本航空123便墜落事故」などだ。その際、音響解析や声紋鑑定が用いられたことで、音からも情報が得られることが世の中に広まったという。

 音を解析する企業や機関は他にも存在する。防音などに精通するゼネコンや住宅メーカー、音響工学を研究する大学、そして、科捜研などだ。

「でも、私たちのように異なる分野を多岐にわたって担当する所は、あまり聞いたことがないですね」と話す。

 依頼の内容は、硬派なものから軟派なものまで範囲が広い。警察からの犯罪捜査協力、おいしそうな“食感音”に注目する食品会社との共同研究、テレビ局からの「幽霊が出ると言われるスポットを調査してほしい」との打診にも、快諾する。

 その中で20年来研究を続けているのが、赤ちゃんが泣きやむ音だ。きっかけは、あるバラエティー番組からの依頼だった。「赤ちゃんが泣きやむCMの現象を調査してほしい、とのことでした。当時、長女が生まれたばかりだったので、実際に子どもの反応を見ながら、分析しました」

 わかったことは、そのCMが赤ちゃんにとって聞きやすい周波数を出していることだった。その後、この放送を見た玩具メーカーから連絡があり、赤ちゃんが泣きやむおもちゃの開発にもつながった。

 音に関して「当たり前」と思っていたことが、世間的にはあまり知られておらず、驚かれることも少なくないそう。「例えば、『人の気配』ってありますよね。これは、“音の反射”だと説明できます。たとえ見えなくても、後ろに人がいると感じる感覚は、科学的にも証明できます」

 音の分野での経験が豊富だが、先入観を持たず、フラットに物事を見ることを心がけている。それは、父から教わったと記憶している。

「音によって、真実が解明されたり、人を助けたりすることができます。そこに可能性を見いだしたことが、この仕事を選び、今も続けている理由です」

(フリーランス記者・小野ヒデコ)

AERA 2024年6月17日号