――そんな答えが返ってくるとは思ってもみませんでした。確かに、先に女性という「きっかけ」があるのは、今の女性活躍の現実なのかもしれません。しかし、それをはっきりと口にするのは憚られませんか。実力ではなく、性別で選ばれて、いい気はしません。
伊藤:はっきり口にしない、否定すべきと考えている人は、「(性別は関係なく)自分だから選ばれた、評価された」と思いたいのでしょうね。でもね、その人のいろんな背景も含めて仕事で評価されるわけじゃないですか。たとえ「下駄を履かせてもらっている」としても、どの程度の下駄なのか、わからないでしょう? 下駄を本当に履いているのかも。
男であれ、女であれ、実力や能力とその人の背景を切り分けるのは大変難しいと思います。例えば、私が消費者庁長官に就いたとき、政府の幹部にやっぱり女性がいた方がいいとの判断がなかったわけではないですよね。
ならば、入り口のところで肩肘張る必要はないんじゃないのかな。それが自分にとって面白そうなチャンスなら、気にする必要はないんじゃないのかな。
「私は白いカラス」 周囲の見方と自分の意識にギャップ
――若い時からいまのように自然体でしたか? 伊藤さんは1985年の均等法前の入省です。
伊藤:私は工学部出身なので、学生時代からわりと周りが男性ばかりという環境にいました。入省してからも、自分自身は男性の中に女性が一人の状況には違和感はなかったです。
自分では自分の姿は見えませんから、入省時に「どう思いますか?」と聞かれて、「私は白いカラスなので、気にされているのは皆さんのほうじゃないですか?」と答えたこともあります。そう思うのは私の問題ではなく、周りの問題でしょう。今思うと生意気ですけど。
――55歳で就任した国土交通省住宅局長も女性初でした。新聞記者は「初めて」ならば記事にします。伊藤さんも取材を受けたと思います。
伊藤:そういうとき、マスコミの皆さんは「後に続く後輩のためにも頑張ります」といった答えを期待されているのかもしれませんが……。私は目の前の仕事と向き合ってきただけなのです。女性のために局長になっているのではなく、仕事をするなかで局長してもらっただけ。
そもそも世の女性たちを引っ張っていくなんて私が言うのはおこがましいですよね。 正直、ゆとりもなかったので、当時は「女性のために」という答えは思いつかなかったです。