鴻上尚史さん(撮影/写真映像部・小山幸佑)
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 「喜ぶべき夫の出世も喜べない」という39歳女性。仕事が好きだが、家事育児では時間にも余裕がなく、些細なことでストレスをため、心の余裕までもなくなってしまったという。そんな女性に、鴻上尚史が贈った「母親として、幸せであるべき」というアドバイスの真意とは。
 

【相談222】仕事が好きな私は、家事育児でイライラしてしまいます。夫が出世したことに対しても、嫉妬心を抱いており、そのイライラが子供に行ってしまいそうで不安です。母親としてどうあるべきかご意見が欲しいです(39歳 女性 ひよこ丸)

 鴻上さん、こんにちは。いつも拝見しています。

 育休中、子どもが1歳半です。子どもは愛しているし、可愛いのですが、家事育児だけをする毎日には達成感がなく、閉塞感ばかりで、気持ちの逃げ場がありません。私が家事育児を担うのは育休中の役割分担だと頭ではわかっているつもりですが、仕事中心で子どものお世話をする時間が短くて済む夫が羨ましくて仕方ありません。

 私は職場では「落ち着いている、仕事が早い」と評価してもらえていましたが、家事育児は要領が悪く、いつもいっぱいいっぱいで余裕がありません。子どもは歩き始めてとにかく外に出たい、遊びたいタイプなので、日中は相手をするだけで自分がまともな食事を摂る時間すらなく、子どもの離乳食や夫の食事を手作りするために、週に数回徹夜して冷凍の備蓄をする日々です。子育てひろばで「食事作りの時間が取れない」と悩みをこぼしたら、「大人の食事つくるとき一緒につくればいいのよ!」と言われ、その大人の食事をつくる時間すらない自分は母親として失格なんだろうなと落ち込みました。

 また、夫への嫉妬心も心の余裕のなさにつながっている気がします。夫とは職場結婚ですが、私のほうが先に昇進試験に合格していたので、本来は私のほうが先に管理職になる予定でしたが、妊娠・出産、さらに保育園に入れなかったことによる育休延長をしているうちに、夫が管理職になりました。

 夫が出世したことは喜ばしいことのはずですが、私が足踏みしている間に追い越されてしまったという悔しさもあり、些細なことで夫にイライラしてしまうようになりました。こんな状態で常に心に余裕がないため、子どもが癇癪を起こして理由もわからず泣きわめくと、怒鳴ってしまうこともあります。

 仕事ではどんなに変な人が相手でも、心のなかで毒づいていれば表面上ニコニコしていられたのに、育児ではそれができないことも情けなく思います。友人に相談すると、シッターさんを活用して自分の時間を持ったほうが良いとか、入れる保育園を探して一刻も早く職場復帰したほうが良いとも言われました。が、母親である自分ですら子どもの癇癪に辟易して怒鳴ってしまうのに、他人であるシッターさんや保育士さんならいわんや……と思ってしまい、預けることに慎重になってしまいます。

 また、家事育児だけでこんなに余裕がないのに、仕事復帰したらますます余裕がなくなり、しわ寄せが子どもに行ってしまいそうで怖いです。

 望んで子どもを持ったのに、子どもがなく、仕事だけに打ち込めていた頃に戻りたいとまで考えてしまいます。母親として、私はどうあるべきなのでしょうか。ご意見をいただけますと幸いです。

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鴻上尚史

鴻上尚史

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)/作家・演出家。1958年、愛媛県生まれ。早稲田大学卒。在学中に劇団「第三舞台」を旗揚げ。94年「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞受賞、2010年「グローブ・ジャングル」で読売文学賞戯曲賞。現在は、「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を中心に脚本、演出を手掛ける。近著に『「空気」を読んでも従わない~生き苦しさからラクになる 』(岩波ジュニア新書)、『ドン・キホーテ走る』(論創社)、また本連載を書籍にした『鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』がある。Twitter(@KOKAMIShoji)も随時更新中

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