それは、あの人やこの人への「能力の見限り」になりませんか? 

 あたしがこんなに苦労しているんだから、他の人ができるわけがない。という考えは、申し訳ないですが、他の人のプロフェッショナル技術に関する見下しだと僕は感じます。

 「家事育児だけでこんなに余裕がないのに、仕事復帰したらますます余裕がなくなり、しわ寄せが子どもに行ってしまいそうで怖いです」というのも、仕事で同じことを言いますか?

 「この仕事だけでも余裕がないのに、新規事業を引き受けたらますます余裕がなくなり、しわ寄せが部下に行ってしまいそうで怖いです」と上司に言いますか?

 本当にやりたい仕事なら、そうならないように計画を練って、仲間と相談するんじゃないですか。

 夫は、ただ仕事をして、食事を待つ存在ですか? 

 夫は、食事を与えないと餓死するし、子供の食事も作ってくれませんか?(離乳食なんて、ネットで調べればピンきりです。手間をかけなくても、子供がちゃんと食べられるのものが山ほどあります)

 家庭という「職場」で、同僚であるひよこ丸さんの夫は、協力する方法を相談できる相手のような気がしますが、どうでしょうか。

 「母親として、私はどうあるべきなのでしょうか」と書かれていますが、そんなの決まっていると僕は思います。家庭の一番の幸せは、みんなが幸せなことです。母親も父親も幸せに暮らすから、子供も幸せになるのです。

 母親として幸せでいること。それが母親としてのあるべき姿だと思います。

 一刻も早く職場に復帰し、やりたいことをやりながら保育園に頼り、シッターさんも必要ならお願いし、夫と相談しながら、ひよこ丸さんのストレスを減らし、幸せな状態を探していくことが大切だと思います。

 それからね、ひよこ丸さん。

 職場に復帰しても焦ることはないと思いますよ。子育てに使う時間は、渦中にいる時は永遠に感じますが、やがて終わります(5人も6人も子供を作れば長いですが)。ひよこ丸さんの人生は、その後、ずっと続きます。出世をする、しないの機会もたくさんやってくるでしょう。仕事のゴールははるか先なのです。

 それまで、常に、個人としてビジネスパーソンとして母親として妻として「幸せな状態でいるためにはどうしたらいいか」を一番に考えて、最適解を探し続けるのがいいと思います。

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鴻上尚史

鴻上尚史

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)/作家・演出家。1958年、愛媛県生まれ。早稲田大学卒。在学中に劇団「第三舞台」を旗揚げ。94年「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞受賞、2010年「グローブ・ジャングル」で読売文学賞戯曲賞。現在は、「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を中心に脚本、演出を手掛ける。近著に『「空気」を読んでも従わない~生き苦しさからラクになる 』(岩波ジュニア新書)、『ドン・キホーテ走る』(論創社)、また本連載を書籍にした『鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』がある。Twitter(@KOKAMIShoji)も随時更新中

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