感想戦をする藤本渚五段(右)と山下数毅三段(左)=2024年5月21日、大阪市福島区・関西将棋会館
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 注目対局や将棋界の動向について紹介する「今週の一局 ニュースな将棋」。専門的な視点から解説します。AERA2024年6月3日号より。

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 現将棋界の絶対王者・藤井聡太八冠を追うのは誰なのか。「ポスト藤井」として名を挙げられる一人が、18歳で現役最年少棋士の藤本渚五段だ。2023年度、多くの棋戦で勝ちまくり、勝率0.850という驚異のハイアベレージを記録。藤井(0.852)とともに、歴代最高勝率(0.855)に迫った。藤本のタイトル戦登場も、いずれは実現するだろう。そうした中で最近、藤本よりもさらに若い15歳の奨励会員が、大きな脚光を浴びた。それが山下数毅三段だ。

 山下は23年度前期の三段リーグで次点に入り、竜王戦6組の出場権を得た。ここで優勝すればいくらかの条件はあるものの規定により棋士昇格の権利を得られる。山下は強敵を次々と連破。奨励会員として史上初めて6組決勝に進出した。こうして実現したのが藤本−山下という10代同士のカードなのだから、なんとも劇的だ。両者は普段からよく練習で指す間柄だという。

「特に終盤力が非常に鋭いという印象があって、自分より上だと思っていましたし。その終盤力をまともにくらわないようにはしようかなと思っていました」

 局後に藤本が語っていた言葉からも、山下の実力が本物であることがうかがえる。

 5月21日に大阪でおこなわれた対局は、山下が堂々と渡り合い、形勢はほぼ互角の戦いが続いた。最後は終盤で藤本が優位に立ち、そのまま押し切った。常套句を使えば、年長の藤本が「貫禄を示した」となるのだろう。とはいえその藤本も、藤井竜王への挑戦権を争う決勝トーナメントではダントツの最年少者だ。

 山下の棋士昇格は残念ながら持ち越しとなった。これだけ強い山下であっても、三段リーグ突破はそう容易ではない。しかしいずれ山下が棋士となり、藤井を追う存在となる可能性は高そうだ。(ライター・松本博文)

AERA 2024年6月3日号

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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