畠山:候補者が演説をして、有権者が聞くという権利や機会が奪われたまま、東京15区の補欠選挙の結果が出てしまったのは重大な問題です。逮捕前、黒川敦彦容疑者(45)と根本良輔容疑者(29)は、都知事選に出馬すると言っていましたし、また同じことが起きるかもしれない。問題は解決していません。
松田:勾留中でも立候補はできますしね。もちろん街頭には立てませんが、つばさの党には逮捕された3人以外もいるので、誰かが立候補した上で標旗を掲げれば街頭演説はできます。今回の妨害行為で公選法の改正の話が出ていますが、僕も畠山さんも、現行法で対応できたのだから、改正する必要はないという考え方で一致していますね。
畠山:そうですね。僕は今回の事件の背景には、メディア側の問題もあると思っています。つばさの党の人たちは候補者へ「質問に答えろ」と詰め寄ったわけですが、メディアがちゃんと追及しないから代わりにやっている「世直し隊」なのだと主張するわけです。それを支持する人もある程度いて、根底には根強いマスコミ不信がありますよね。僕は取材する立場の人間として、権力者や候補者に対して、聞かなくてはいけないことを十分に聞いてこなかったのではないか、報じてこなかったのではないかと責任を感じています。
松田:SNSの時代にアテンション・エコノミー、とにかくインプレッションが取れればお金がもらえるというところにマスコミは完全に乗ってしまっているのではないでしょうか。最近だと、静岡県知事選の応援演説での上川陽子大臣の発言が切り取られ、共同通信の見出しになりました。「うまずして何が女性か」です。「女性は産む機械」発言が連想されるような見出しですが、実際はそのような趣旨の演説をしたわけではなかったため、PVを稼ぐための見出し詐欺に思えました。
畠山:出馬表明しながら全く報じられないと嘆く候補者もいる一方で、広島県安芸高田市の石丸伸二市長やつばさの党は目立つので、どんどん報じられる。“目立つもん勝ち”みたいな社会になっているわけです。そうしてしまったメディア側の責任は大きくて、つばさの党だけを責めにくいですね。
松田:同感です。
(構成/編集部・大川恵実)
※AERA 2024年6月3日号より抜粋