中田邦造自身が書いたメモ「大政翼賛会中心の読書指導運動の行詰り」。こうした史料の原物も手続きをすれば、貴重資料閲覧室で手にとって見ることができる。
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 飲み物持ち込み可で自由に過ごせる石川県立図書館だが、その一室だけは、厳重に管理されている。

 まず入り口で荷物をロッカーに預けなければならない。部屋は透明なガラスで仕切られており、外から中が見えるようになっている。

「調べものデスク」の司書、杉井亜希子さんは「下山さんが知りたい、中田邦造と大政翼賛会に関係しそうな史料を、書庫から出しておきました」と言う。

「史料を見るには、時計を外して手を洗ってからごらんになってください。コピーはとれませんが、写真の撮影は自由です」

 透明なガラスで囲まれた部屋には、洗面所があり、ここでまず手をあらって史料を手にするようになっている。この部屋だけは飲食禁止、時計の他指輪等も外すよう求められる。

 石川県立図書館は室町後期以降の史料の原物7万点を所蔵し、うち6万点は求めればこの部屋で手にとって見ることができるのだ。

進学率が3%以下の農村での図書館運動

 2023年度の来館者数で日本一の102万6046人を記録した石川県立図書館のもうひとつの秘密は、利用者の課題解決を手助けしてくれる「調べものデスク」だ。ここでは、館内の史料や書物を案内するだけでなく、行政のサービスに利用者をつないだりもする。

 私は、戦前、石川から「読書の風」運動を全国に広げていった石川県立図書館長の中田邦造が大政翼賛会についてどう考えていたのかを知りたかった。

 小学校しか出ていない農村の青年たちに本に触れる機会をということで1927年(昭和2年)から中田の指導で始まった「読書の風」運動。

 石川県立図書館の月報に中田は当時の石川の農村の状況についてこんなことを書いている。

〈中等学校へ進むものは二・六三%にすぎず(中略)このような農村文化の実情、村民教養の程度を見せつけられては、どうしてもそのままに捨ておくことはできない。現在の青年達に一層豊かに、より良き図書を与えるにはどうしたらよいか、(中略)この問題は図書館に課せられた大きな任務であると思う〉

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下山進

下山進

1993年コロンビア大学ジャーナリズム・スクール国際報道上級課程修了。文藝春秋で長くノンフィクションの編集者をつとめた。聖心女子大学現代教養学部非常勤講師。2018年より、慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授として「2050年のメディア」をテーマにした調査型の講座を開講、その調査の成果を翌年『2050年のメディア』(文藝春秋、2019年)として上梓した。著書に『アメリカ・ジャーナリズム』(丸善、1995年)、『勝負の分かれ目』(KADOKAWA、2002年)、『アルツハイマー征服』(KADOKAWA、2021年)、『2050年のジャーナリスト』(毎日新聞出版、2021年)。標準療法以降のがんの治療法の開発史『がん征服』(新潮社)が発売になった。元上智大新聞学科非常勤講師。

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