山本淳子さん

 とはいえこのワンルーム、宴会にはぴったりだが毎日の生活には広すぎる。そこで普段は、主人は母屋、女房は廂の間など居場所を分け、間を仕切って暮らすことになる。想像してみてほしい。大宴会場を模様替えして個室ホテルに仕立てた部屋。しかしその間仕切りは、近づけば向こうが透けて見える御簾(みす)、現代の布製カーテンにあたる「壁代(かべしろ)」、最も分厚い間仕切りでも、せいぜいが襖障子(ふすましょうじ)だ。プライバシーをめぐる攻防戦がここから始まる。室内に几帳(きちょう)や屏風を立て、姿を見られたくない女主人や女房はその陰に隠れる。いっぽう男たちは、妻戸(つまど)の背後や御簾の隙間から目を凝らす。なかには恋に胸をときめかせ、忍びこむ好機をうかがう者たちもいるのだ。夜になって蔀戸を下ろすや、外界の光が遮断され闇の世界になってしまうことも、秘密の攻防に拍車をかける。

 ところで、女房たちはこうした空間に局(つぼね)を与えられ、主人たちと共に暮らした。多くの場合は、母屋を取り囲む廂の間を御簾などで仕切って局とした。縦横約三メートル、六畳弱の広さだ。恋人を招き入れることもある。その逢瀬に聞き耳をたてる隣室の女房もいる。清少納言は『枕草子』の「心にくきもの(いい感じのもの)」の中に、寝殿内で聞く物音を挙げた。夜中にふと目を覚まし、耳をそばだてると、女房が男と話している。内容は聞き取れないが、忍びやかに笑う気配。ああ、何を言っているか知りたい……。別の段「嬉しきもの」には「人の破り捨てた手紙を継いで見たら、何行もつながって読めたのが嬉しい」などとも記されている。文面からは、清少納言のじれったい気分、思わずほころぶ笑顔が浮かぶ。

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