AERA 2024年4月29ー5月6日合併号より

 教員は会計事務や部活動指導といった本来業務とは言いがたいことに追われがちだが、こうした多忙さが不登校生への支援不足につながっている可能性は否定できない。

「公立中学校離れ」を招いているという指摘もある。首都圏の中学受験事情を分析している「森上教育研究所」によると、私立中の入試のピークである今年2月1日午前の受験者数は約4万3千人。1都3県の公立小の全6年生に対する割合は15.3%で過去最高だった。

 森上展安代表は「教員不足など、公立学校の教育への不信感が高まっていることも一因だ」と話す。公立不信が首都圏の保護者にどの程度広がり、中学受験熱の高まりとどう関係しているのかを示すデータはないが、教育業界ではよく語られる見方である。

 どうすれば改善するのか。文科省もこの間、様々な手を打ってきた。19年には、会計事務や登校時の見守りなど、学校や教員が担わなくていい業務を明確化し、削減するよう求めた。23年度からは部活動指導を教員ではなく外部人材が行うよう、地域のスポーツクラブなどに移管する「地域移行」を本格的に進めている。

 特に教員らの期待を集めるのが、いままさに大詰めを迎えている「教員給与特措法」(給特法)の改正議論だ。給特法とは、1972年に始まった公立学校教員特有の給与制度で、基本給に教職調整額4%を上乗せする代わりに残業代を支給しないというものだ。教員の業務は教材研究など自主的なものも多く、特殊で裁量性の高い職業だとみなされているためだ。いくら残業しても給与額が変わらず、教員から「定額働かせ放題」と揶揄され、長時間労働の温床とみられている。この改正を目指し、2023年6月に文科相の諮問機関、中央教育審議会の特別部会が議論を始めた。今年5月にも案がまとまる見通しだ。

 中教審は教職調整額を4%から10%以上に増額するものの、「残業代なし」は維持する見通しだ。この案は、中教審の議論に先立って出された、自民党の提言をそのままなぞったものだ。

 ただ、多くの教員が求めるのは、残業時間に応じて手当を出す、ほかの職場と同様の扱いだ。使用者側が、支払う残業代を減らそうと、長時間労働に歯止めをかけるという期待がある。

 増額幅が大きければ、より多くの人が教員を目指すようになり、なり手不足は改善するかもしれない。一方、根本原因である長時間労働問題には、現行案では直接切り込めていないと言える。これで落着、とは到底いかない。(朝日新聞社・高浜行人)

AERA 2024年4月29-5月6日合併号より抜粋

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