その光景は異様だった。かつてこれほどのブーイングを見たことがない。西武ファンの怒りの矛先が向けられたのは、昨オフに西武からソフトバンクにFA移籍した山川穂高だった。
ベルーナドームで4月12日から行われた西武―ソフトバンクの3連戦。山川は移籍後初めて、ライバル球団の主砲として、西武の本拠地に登場した。
12日の初戦、初回2死三塁の好機で1打席目が回ってくると、大音量のブーイングが西武ファンのひしめく左翼席、三塁側から一斉にわきあがり、ソフトバンクの応援歌がかき消された。山川が空振り三振に倒れると、地鳴りのような大歓声。マウンド上の今井達也が苦笑いを浮かべるほどだった。山川はこの試合、3三振を喫した。
翌13日の第2戦でも球場に響き渡るブーイングが山川に浴びせられた。5回無死満塁の好機で空振り三振を喫した時は、優勝したかのように球場が盛り上がった。
このブーイングの中、平常心で打席に臨むことは難しいだろう。だが、山川のバットは沈黙したままでは終わらなかった。
6回に一死満塁で打席に立つと、左中間スタンドへホームランを放った。山川がベンチ前で西武時代から代名詞の「どすこい」パフォーマンスを披露すると、いったんは沈黙に包まれた西武ファンが再びどよめき、ブーイングと怒号のようなヤジが飛んだ。
山川は9回にも2打席連続の満塁弾。1試合2本の満塁アーチはプロ野球史上3人目の快挙だった。だが、西武ファンに配慮したのだろう。2度目の「どすこい」は控えめに行い、試合後のヒーローインタビューにも現れなかった。
この3連戦。山川が打席に立つと、絶えずブーイングがわき起こった。