すぐに行動に移さないと気が済まない性格。資格を取り、ユーチューブで熱波師としての動画配信を始めた。そして、客として訪れた東京・上野の「サウナ&カプセルホテル北欧」の支配人と広報がその動画を見ていて、あおいでみないかと誘われた。ここはドラマ「サ道」のロケ地でもあり、「サウナの聖地」と呼ばれる老舗サウナだ。

 そうした運にも恵まれて、2020年6月に熱波師デビューを果たした。 

 素っ裸の男性たちと接する仕事。最初は少し抵抗があったが、すぐに消えた。 

 テレビとは違い、この仕事はお客さんの「顔」や「人」がしっかり見えることを知ったからだ。お礼を伝えてくる人がいたり、感想の声がフィードバックにつながったりもする。 

「人を笑顔にできている。素直にそう思えて、やりがいを感じたんです」 

 熱波師それぞれの仰ぎ方には、練習と経験を積み重ねたうえでの技術が詰まっている。初体験の人が多ければ加減するし、体調に問題が起きていないか、あおぎながら客の様子をつぶさに確認するのだという。突き詰めれば、奥の深い仕事だ。 

「10~15分の時間をいかに短く感じさせるか、パフォーマンスによる演出ももちろん大切です。ですが、本来の熱波師の役割は、蒸気を攪拌して発汗をうながすこと。蒸気を管理して、心地良い空間を作ることです。本来の仕事の意味は、はき違えないように心がけていきたいと思っています」 

ドレス姿でタオルを振る鮭山さん/©池田(ゆかい)

 意外な気づきもあった。気持ち良さを求めてアウフグースにやって来る客がいる一方で、心が弱っていたり、悩みを抱えていたりしそうな人も少なくない。 

 鮭山さんが月曜日に登場する都内のサウナでは、 

「(仕事始めの)月曜は大嫌いだったけど、今は楽しみになったよ」 

 と声をかけてきた人がいた。 

 理由は分からないが、涙を流したお客さんもいるそうだ。心を癒やすことも、熱波師のテーマなのだと今は自覚している。 

「何歳まででも、この仕事を続けたい」ときっぱり話す鮭山さん。ずっと抱いてきた「誰かを笑顔にしたい」という自分の思いと、癒やしを求めるお客さんの思いが一致している。

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