もちろん、その手段はカリブルに限る必要はない。爆撃機から発射されるKh‒101などの長距離空中発射巡航ミサイル(ALCM)も含まれようし、将来的には航空機発射型のキンジャール(陸軍のイスカンデル‒Mシステムから発射される9M723短距離弾道ミサイルの空中発射バージョン)やツィルコン極超音速ミサイルの対地攻撃バージョンが加わることも予想される。

 実際、太平洋艦隊の戦力整備状況もこれに沿ったものである。ソ連崩壊後、ロシア海軍は巡洋艦や駆逐艦といった大型水上戦闘艦艇をほとんど配備できておらず、2010年代に入ってから登場した22350型(アドミラル・ゴルシコフ級)フリゲートも、現在のところ北方艦隊にしか配備されていない。ロシア海軍がそれぞれ1隻だけ保有している空母と原子力巡洋艦も同様である。

 これに対して20380型(ステレグーシチー級)コルベットや636・3型(改キロ級)といった沿岸戦闘艦艇の配備はそれなりのペースで進んでおり、しかもその全てがカリブル巡航ミサイルの発射能力を有している。さらにロシア航空宇宙軍は近く、極東のアムール州にもTu‒160超音速戦略爆撃機の基地を開設するとも報じられているから、既存の水上艦艇やSSGNに対するカリブル搭載改修と併せて、この種の長距離攻撃能力はかなり向上することを見込んでおかねばならない。

日本の対ロシア戦略を考える――ロシアは日本のどこを叩くか

 ただ、コフマンとピーターセンが描くシナリオは、基本的にロシアとNATO(北大西洋条約機構)諸国の間でのエスカレーションを前提としたものであった。すなわち、欧州での局地戦争(例えば第二次ロシア・ウクライナ戦争)にNATO諸国が参戦して地域戦争化し、さらには米露間の全面核戦争を含めた大規模戦争へとエスカレートしそうな場合にカリブルによる非核E2DE型攻撃が登場するということである。

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揺らぐ「戦闘安定性」の概念