では、結局、太平洋艦隊のカリブル化は何を意図したものなのだろうか。唯一考えられるのは、欧州での戦争が大規模戦争(米露の全面核戦争)にエスカレートする危険が生じた場合、オホーツク海の要塞を脅かしかねない日米の軍事力に対する能動防御型攻撃が発動されるというシナリオである。具体的には、日米の航空優勢獲得を阻止するための千歳・三沢・松島・小松・エルメンドルフ(アラスカ)等の戦闘機基地への攻撃や、米空母機動部隊の母港がある横須賀・ハワイへの攻撃、八戸・厚木等の対潜哨戒機基地への攻撃が想定されよう。

「感じの悪い未来図」

 もちろん、以上は、いくつかの仮定を積み重ねた上での話ではある。例えばウクライナでの戦争がNATOとの地域戦争にまでエスカレートすることは現時点では可能性の領域に属するシナリオに過ぎないし、これが大規模戦争にまでエスカレートする可能性はさらに低い。

 同時に、このように言えるのは、エスカレーションの各段階において抑止力が働いているからに他ならない。以上で筆者が述べてきた未来図はいかにも「感じが悪い」ことは承知しているが、望ましくない事態を高い解像度で予測しておくのでない限り、導き出される抑止戦略は耳触りのよいスローガンの羅列に過ぎなくなってしまう。

 では、日本の対露戦略はいかにあるべきか。

 今度は逆に、最も望ましい未来図を考えてみよう。欧州での軍事的緊張度が低下して日露間の政治・外交・経済関係が再び改善し、中露の接近にも歯止めがかかる、といったあたりが概ね想定されるのではないかと思われる。これをエンド・ステート(達成されるべき望ましい状態)と設定するなら、日本の戦略にとって主な手段は外交や経済協力になる。

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