一方、日露間における軍事紛争の可能性はそう高いものではない。係争地である北方領土をロシアが実効支配している以上、日本がこれを実力で奪還しようとするのでない限り、領土問題をめぐって日露が戦う可能性はまずないと考えてよいだろう。ロシア側にはこの点についてかなり疑り深い議論があるにはあるが、日本政府が北方領土の軍事的奪還を目指すだろうと本気で考える日本国民はそう多くないと思われる。少なくとも、いち日本国民としての筆者には、このようなシナリオはどうにも想像がつかない。

 では、ロシアが日本に大規模侵略を行う可能性はどうかといえば、これも相当に低い。ウクライナの場合、(1)民族・文化・歴史等を共有するウクライナはソ連崩壊後もロシアの強い影響下にあるべきだという民族主義的動機と、(2)NATO東方拡大をはじめとする冷戦後の西側陣営に対する振る舞いへの不満・屈辱感が結合した結果として、ロシアは侵略に及んだと考えられるが、日露間にはこうした事情がそもそも存在しない。海を隔てて隣り合う日露は近代に入ってからようやく邂逅したのであり、ロシアとウクライナのように「区別がつかないほど似ている」という関係にはない。また、ソ連はその欧州部から中央アジア部にかけて崩壊したのであって、極東では国境線の変更や新興独立国の誕生という事態は起こらなかった。要するに、ロシアが日本という国について強い執着を持ったり、同盟の拡大に関する強い不満を持つような余地が極東にはあまりない。

 このように考えていくと、太平洋艦隊の太平洋艦隊のカリブル化や爆撃機の増強は、欧州正面におけるそれと若干性格が異なるのではないかというふうに見えてくる。戦争のエスカレーションが行き着くところまで行き着き、米露の全面戦争となった場合にやることは同じ(つまり大規模核攻撃)であるとしても、それ以前の段階―─例えばロシアとNATOの間で通常戦争が勃発するような事態において非核E2DE型攻撃が行われるとするなら、それは欧州部に配備された三艦隊(北方艦隊、バルト艦隊、黒海艦隊)の役割になるはずであるからだ。

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オホーツク海の脆弱性