大変お得な豪華列車も
岐阜県・長良川鉄道の観光列車「ながら」も水戸岡さんのデザインだという。長良川沿いの緑に映えるロイヤルレッドの外装。車内には岐阜県産の木材が使用されている。
「ローカル線の列車だからといって絶対に手を抜かないのが水戸岡さんです」
この列車には、区間運賃に整理券代510円をプラスするだけで乗れるプランも用意されている。
「それでななつ星と同じクオリティーを体験できる。大変お得な豪華列車です」
一方、ローカル線の経営はコロナ禍による移動制限や外出自粛で大きな打撃を受けた。山あいを縫う線路は台風や地震などで被災しやすい。
櫻井さんの故郷を走る上田電鉄も2019年の台風19号による豪雨で千曲川にかかる鉄橋が崩落した。
「この鉄橋が落下したんです」と、8年ほど前に撮影した写真を見せてくれる。赤い鉄橋の中央に写るのは走り去る「さなだどりーむ号」。車両には戦国武将・真田幸村を象徴する赤いかぶとのエンブレムとともに「六文銭」が描かれている。
「かなり長い間運休していたんですけれど、上田市民からの募金もあって、21年春に見事復活しました。もちろん、ぼくも寄付させてもらいました。ローカル線はどこも大変です。だから、車じゃなくて、列車で行こうよ、というのがぼくの気持ちです」
撮影は鉄道と徒歩で移動
国内の鉄道を撮る際、飛行機で行くのは基本的に沖縄だけだという。
「北海道も九州も全部鉄道で行きます。基本的に駅から歩いて行ける範囲しか撮りません。常に時刻表を見て、駅に着いたら、2キロ先まで20分あれば歩いていける、という計算です。車だと、いい撮影場所を見落としますよ。これは絶対に言えます」
北海道や九州を訪れた際、東京や大阪方面のナンバーをつけた「撮り鉄」と呼ばれる鉄道ファンの車を見かけることがある。
「これはもう愚痴になっちゃうんですけれど、彼らは鉄道に1円もお金を払っていないわけですよ。自分が撮る被写体に対してはもっとお金を払ってほしい、という気持ちがあります」
言いたいことは全て写真に込めてきた、という櫻井さん。サラリーマン時代も、今もやっていることは変わらないという。
「いつも馬車馬のように働いているので、のんびり鉄道旅行をエンジョイすることなんて、全然ないですよ。ははは」
そう、うれしそうに語った。
(アサヒカメラ・米倉昭仁)
【MEMO】櫻井寛写真展
「列車で行こう!The Railway World」
キヤノンギャラリーS(東京・品川) 3月9日~4月23日
「列車で行こう!The Railway World in Japan」
キヤノンギャラリー銀座(東京) 3月19日~3月30日
「列車で行こう!The Railway World in Japan II」
キヤノンギャラリー大阪 3月19日~3月30日