「シーメンス製の超特急ICE3(ドイツ・フランクフルト中央駅)」 世界初の電化鉄道は1879年にベルリンで公開されたシーメンスの電気機関車で最高速度はわずか12キロだった。それから145年後の今日、ドイツ最速のICE3は同じシーメンス製で最高速度は330.0キロ(写真と文:櫻井寛)

一番正しい鉄道の乗り方

ドイツ・フランクフルト中央駅で写した写真にはドイツ鉄道が誇る超特急「ICE3」が見える。

「営業最高速度は300キロ、最大走行速度は時速330キロ。これは世界一です」

中国ではさらに速い列車が走っているが、「ぼくは、中国の超特急は中国の技術で作られたものだとは思っておりません」と、きっぱり。

中国の超特急はドイツ・シーメンス社が製造した車両をベースにしたものだからだ。

世界初の電気機関車もシーメンス製で、1879年にベルリンで開催された博覧会で走った。

「その会社が今も世界最高速の電車を作り続けているわけです。ちなみにICE3をデザインしたのは東京芸大に留学したアレキサンダー・ノイマイスターで、日本の新幹線500系をデザインした人でもあります」

フランクフルト中央駅の写真にはさらなる意味も込められている。

「それは、この写真を1円もお金を払わずに撮った、ということです。つまり、ドイツの駅は改札がないから誰でも入れる。日本の駅とは正反対です」

ドイツの鉄道は乗車券を購入している前提で、改札を通らずに自由に乗降できる。

「ぼくはそれが一番正しい鉄道の乗り方じゃないか、と思うんです。日本のICカード乗車券は大したものだと思いますが、自動改札機の開発費や設置費用をわれわれが払っていることを考えると、改札なんか、ない方が絶対にいいわけです」

「ななつ星in九州(JR九州)」 豊肥本線阿蘇駅で夜明けを待つ「ななつ星in九州」。お茶室のある2号車から温かな光が漏れる。朝食はホーム上のレストラン「火星」にて(写真と文:櫻井寛)

「寝心地だけでも味わったら?」

一方、国内に目を向ければ、櫻井さんが乗車を夢見たゴージャスな列車が走っている。

2013年に誕生した日本初の本格的クルーズトレイン、JR九州の「ななつ星 in 九州」もその1つ。

夜明け前の本県・阿蘇駅で撮影したななつ星が艶やかに赤く光っている。古代漆色に塗装された車両は鏡のようにつるつるで、周囲のライトの色が写り込むのだ。

「阿蘇駅のホームには『火星』というレストランがあって、到着した乗客はそこで朝食を食べます。他のお客さんはまだ寝ていましたけれど、ぼくだけ降りて撮影した」

ななつ星は「オリエント急行と並ぶ超豪華な寝台列車」。初めて1泊2日で乗車したときは「一睡もしなかった」という。

「興奮していたから眠くもならなかったです。2人部屋なので、そういうときだけかみさんがついてくるんですが、『寝心地だけでも味わっておいたほうがいいんじゃない。原稿に書けないわよ』って、言われて1~2分だけベッドに横になりました」

ななつ星の窓は広く、低い位置から設置されているため、寝ながら星を見上げられる。そんな話をこの列車をデザインした水戸岡鋭治さんから聞いた櫻井さんは、「実際に、試してみました」。

さらに車両には「組子」と呼ばれる小さな木の細工を施した障子や回廊があちこちにある。

「それも全部、確かめました。途中、観光下車があるんですけれど、一切行かずに、車内滞在(笑)」

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