1954年、長野県小諸市生まれの櫻井寛さん。
「母親は小諸の駅員で、父親は中込(長野県)の駅員だった。職場結婚で私が生まれて、国鉄のDNAはたっぷり(笑)」と、ユーモアを交えて語る。
中学卒業と同時に上京し、昭和鉄道高校(豊島区)入学した。将来の夢はブルートレインの車掌になることだった。
「ところが、国鉄の経営がどんどん傾いちゃって、ぼくが卒業した年は採用がほぼゼロだった。それで、国鉄には入れなかったんです」
その後、日大芸術学部をへて、世界文化社に入社。1990年にフォトジャーナリストとして独立した。これまで鉄道の撮影で訪ねた国は95カ国にもなる。
スイスの鉄道は世界一
鉄道を愛しているからこそ、日本の鉄道に対する見方は厳しい。
「日本は鉄道がすごく発達した国だといわれますが、日本が優れているのは大都市の鉄道と新幹線だけです。北海道には200~300キロの範囲に鉄道のない地域がある。ローカル線の状況は非常に厳しい。田舎に行くと、1日3本しか列車が走っていないとか」
櫻井さんは、「日本が海外の鉄道に学ぶべきことはたくさんある」と、熱を込めて語る。
その1つがスイスで、九州よりも小さな国だが、「鉄道において世界一かもしれない」と言う。
スイスを一番に挙げる理由は鉄道の密度だ。
「国内のどんな場所でも16キロ以内に鉄道があるといわれています。どんなローカル線でも1時間に1本は必ず電車がある」
その電車もすばらしいという。櫻井さんが見せてくれた写真に写るのは名峰マッターホルンを背景に走る最新鋭の電車「ポラリス号」だ。
「イタリア・ピニンファリーナ社のデザインで、最高にかっこいい。最大の特徴は左右非対称なことです。日本にも左右非対称の電車はありますが、ポラリス号はドアが車両の片側にしかありません。つまり、ホームの側だけにドアがあればいいという、とても合理的な考えです。日本人には思いつかないのではないでしょうか」
ドアがないぶん、座席を増やせるし、コストダウンにもつながる。