「千曲川の赤い鉄橋とさなだどりーむ号(上田電鉄・長野県)」 この鉄橋は2019年10月の台風19号の水害によって落橋したが、上田市民のパワーによって21年3月28日、見事復旧を果たした(写真と文:櫻井寛)

1954年、長野県小諸市生まれの櫻井寛さん。

【櫻井寛さんの作品はこちら】

「母親は小諸の駅員で、父親は中込(長野県)の駅員だった。職場結婚で私が生まれて、国鉄のDNAはたっぷり(笑)」と、ユーモアを交えて語る。

中学卒業と同時に上京し、昭和鉄道高校(豊島区)入学した。将来の夢はブルートレインの車掌になることだった。

「ところが、国鉄の経営がどんどん傾いちゃって、ぼくが卒業した年は採用がほぼゼロだった。それで、国鉄には入れなかったんです」

その後、日大芸術学部をへて、世界文化社に入社。1990年にフォトジャーナリストとして独立した。これまで鉄道の撮影で訪ねた国は95カ国にもなる。

「マッターホルン仰ぐポラリス号(スイス・ゴルナーグラート鉄道)」 そこに山があるから登るのが登山家なら、そこに山があるから登山鉄道を敷設するのがスイスの鉄道マンである。事実、富士山の9合目に相当する標高3454メートルまで登山電車が走る登山鉄道王国なのだ(写真と文:櫻井寛)

スイスの鉄道は世界一

鉄道を愛しているからこそ、日本の鉄道に対する見方は厳しい。

「日本は鉄道がすごく発達した国だといわれますが、日本が優れているのは大都市の鉄道と新幹線だけです。北海道には200~300キロの範囲に鉄道のない地域がある。ローカル線の状況は非常に厳しい。田舎に行くと、1日3本しか列車が走っていないとか」

櫻井さんは、「日本が海外の鉄道に学ぶべきことはたくさんある」と、熱を込めて語る。

その1つがスイスで、九州よりも小さな国だが、「鉄道において世界一かもしれない」と言う。

スイスを一番に挙げる理由は鉄道の密度だ。

「国内のどんな場所でも16キロ以内に鉄道があるといわれています。どんなローカル線でも1時間に1本は必ず電車がある」

その電車もすばらしいという。櫻井さんが見せてくれた写真に写るのは名峰マッターホルンを背景に走る最新鋭の電車「ポラリス号」だ。

「イタリア・ピニンファリーナ社のデザインで、最高にかっこいい。最大の特徴は左右非対称なことです。日本にも左右非対称の電車はありますが、ポラリス号はドアが車両の片側にしかありません。つまり、ホームの側だけにドアがあればいいという、とても合理的な考えです。日本人には思いつかないのではないでしょうか」

ドアがないぶん、座席を増やせるし、コストダウンにもつながる。

次のページ
一番正しい鉄道の乗り方