“常識”がまったく通じなかった
死刑が確定した瞬間の胸の内を、大森さんはこう振り返る。
「3年間死力を尽くして、やるべきことはすべてやったので、後悔はありませんでした。ただ、真実解明の道が途絶えたことには、なんとも言えない気持ちになりました」
白石死刑囚には、“常識”がまったく通じなかった。9人を手にかけた理由は、「楽をしてお金を稼いで、性欲も満たしたかったから」。大森さんが「普通そんな理由で人を殺しますか?」と尋ねても、「(警察に)見つからないと思ったので」と、どうにもかみ合わない。
裁判で争わない理由を「起訴内容はすべて事実なので」としか説明しない白石死刑囚の姿に、死刑制度を使った自殺が目的の可能性を考えたこともあった。しかし本人は、「死刑で構わない」とは言っても、「死刑になりたい」という言葉は一度も口にしなかったといい、「白石さんの心の奥に何があったのか、今も分からないままです」(大森さん)。
一方、東京拘置所や府中刑務所で教誨師を務めるハビエル・ガラルダ神父(92)によると、死刑囚が死刑に抵抗感を抱かないというのは非常に珍しいケースだという。ガラルダさんは、これまで担当した6人の死刑囚の姿をこう振り返る。
「死刑囚になるとずっと一人で、誰かと話すことはほとんどできない。とてもつらい状況です。でも、みなさん少しでも希望を見つけて、生きようとしていた。ある人は、『ガラルダ神父と月に1回話せることが今の希望』と言っていました。ある人は、『私は感謝しながら生きることにしたよ。だって歩けるし寝られるし、新聞を読んでラジオだって聞けるし、できることはたくさんある』と言っていました。ある人は、『私は灯台です。私の姿を知った若者たちに、悪いことをしてはいけない、こういう生き方に近づいてはいけないと思ってもらうことが、私の生きる意味です』と話していましたが、執行前に病気で亡くなりました」