白石死刑囚との「対立」
実は白石死刑囚についた弁護士は、大森さんで3人目。前任の2人は、裁判で不利にならないよう取り調べでの黙秘を勧めた結果、白石死刑囚に「自分の意に沿わない」とみなされて解任されていた。そこで大森さんは、いったんは白石死刑囚の要求をのんだふりをして、法廷では死刑回避に向けて争うことにした。数々の開示証拠を確認した結果、被害者の同意の上で殺害した「承諾殺人罪」を主張する方針を決めた。
本来弁護士は、依頼人の主張に沿った弁護をすることが大原則だ。依頼人が無実を訴えていれば無罪になるよう、罪を認めていれば少しでも刑が軽くなるよう、手を尽くす。
だが大森さんは、「死刑判決が予想される事件は、究極の例外だと考えている」と話す。
「もし判決後に新たな真実が発覚したとしても、死刑が執行されていたら取り返しがつきません。また、弁護人が『争ったところでどうせ有罪になる』と諦めたことで、冤罪が生み出されてきた例もある。人の命を奪う死刑判決は、高裁と最高裁でも慎重な審理が尽くされるべきです」
公判前整理手続きで大森さんの弁護方針を知った白石死刑囚は、「どういうことですか!」と怒りをあらわにした。これまで冷静沈着で紳士的な態度を崩さなかった白石死刑囚が、初めて感情を高ぶらせた瞬間だった。以降、大森さんの接見には応じなくなっていった。
対立を解消できぬまま公判が始まると、白石死刑囚は弁護側からの質問には黙秘し、代わりに検察側からの質問には素直に応じた。そして初公判から2カ月半後の20年12月15日、死刑判決が言い渡された。弁護人の控訴申し立てを3日後に取り下げた白石死刑囚は、控訴期限1日前に接見した大森さんの「本当にいいんですか?」という問いかけに、迷いなく「いいです」と即答したという。